2019年08月01日号
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artscapeレビュー

大山エンリコイサム個展「VIRAL」

2019年05月15日号

会期:2019/05/18~2019/11/17

中村キース・ヘリング美術館[山梨県]

ニューヨークを拠点に活動する大山が、箱根のポーラ美術館に続いて、小淵沢の中村キース・ヘリング美術館でも個展を開いている。二つの美術館で個展を同時開催ってスゴイんだけど、どうしてわざわざ不便な場所でやるの?
 てか、どうして不便な場所に招かれるんだろう? 
彼の作品は田舎より都市空間でこそ映えるのに。でもまあ、どちらもリゾート地だから、つい行ってみたくなるけどね。

キース・ヘリング美術館が大山を招いたのは、もちろん彼がグラフィティをベースにした作品を制作しているから。タイトルの「VIRAL」とは「ウイルスの」という意味で、グラフィティがウイルスのように社会に浸透したこと、キース・ヘリングはエイズウイルスに感染して亡くなったが、彼のアートは世界中に拡散したことなどの意味を込めているそうだ。

大山がグラフィティで注目したのは、腕のストロークを生かしたライティング。その運動の要素を抽出して再構築したのが、「クイックターン・ストラクチャー」と名づけたモチーフだ。今回は、このクイックターン・ストラクチャーを中心にした絵画10数点を展示している。
クイックターン・ストラクチャーは白黒の陰影(?) をつけた帯がジグザグに交差し、複雑に入り組んだもの。単純な要素が複雑に絡み合い、平面的なのに立体的にも見え、記号(書)のようでありながらイメージ(絵)を喚起し、表現主義的とも幾何学的ともいえる、実に明快かつ曖昧な性格を備えているのだ。特にストローク・ペインティングの上にクイックターン・ストラクチャーを載せた《FFIGURATI#184》は、20世紀絵画の主要な成果を1枚に凝縮したような問題作。色がないのが寂しい気もするが、それさえ主要な関心事以外の余計な要素を排除したモダニズムのストイックさを彷彿させる。


この日は屋外の中庭(ミュージアムシアター)で公開制作が行なわれた。岡本太郎や横尾忠則と違ってハデなパフォーマンスを好まない大山が公開制作を行なうのには、それなりの理由があるのだろう。まず白い大きなキャンバスの前に立ち、画面の中央に腕のストロークを利かせて大きな円を描く。ほぼ正円に近い円で、飛沫や滴りもいい具合につき、これだけだと円相図だ。ハッとしたのは、円を描き終わったとき、腕の動きにつられて大山の身体が正面を向いたこと。つまり一瞬、作者が画面に背を向け、観客に向き合ったのだ。別にそこに意味をこじつけるつもりはないけど、なにかとても新鮮な気分だった。

2019/05/18(土)(村田真)

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