artscapeレビュー
Meet the Collection ─アートと人と、美術館
2019年05月15日号
会期:2019/04/13~2019/06/23
横浜美術館[神奈川県]
1989年にオープンした横浜美術館の開館30周年を記念したコレクション展。まさに平成とともに歩んできた美術館だが、コレクションが開始されたのはそれに先立つ1982年のこと。現在12,437点を有するコレクション(版画や写真が3分の2近くを占める)のうち、今回は300点余りを「LIFE:生命のいとなみ」「WORLD:世界のかたち」の2部に分け、さらにそのなかにいくつか章を立てて紹介。加えて、束芋、淺井裕介、今津景、菅木志雄の4人のアーティストをゲストに招き、彼らの作品とコレクションとの関わりを提示する。
圧巻は、円形の展示室の壁面いっぱいに泥絵を描いた淺井裕介の《いのちの木》。何人もアシスタントを使っているが、これだけスケールの大きな壁画を制作しながら2カ月あまりの会期が終われば消されてしまうのは、なんとももったいない。今津景の《Repatriation》も中身の濃い力作。明治期の廃仏毀釈でアメリカに渡った快慶の《弥勒菩薩立像》や、ナチスに略奪されたクラナハの《イヴ》、大英博物館が大理石彫刻を所有しているため空っぽのアクロポリス博物館など、美術品の略奪と移動をテーマにした油絵の大作だ。
コレクションで興味深かったのは「あのとき、ここで」と題された章。両国大火を描いた小林清親の浮世絵、関東大震災の被災地を記録した渡邊忠久、川崎小虎、田村彩天らの版画をはじめ、ロバート・キャパ、デヴィッド・シーモア、アンリ・カルティエ=ブレッソン、沢田教一らの戦争記録写真、土田ヒロミや米田知子らの「記憶写真」など、美術ジャーナリスティックともいえそうな「複製作品」が並ぶ。ここだけで100点を超し、全体の3分の1を占めていて、量的にもテーマ的にも見ごたえがあった。振り返れば、横浜美術館が開館した1989年は、写真発明150年ということで「芸術としての写真」がブームになった頃。前年に開館した川崎市市民ミュージアムとともに、同館が写真を目玉の1つにしたのはわかるが、せっかく立派な美術館を建てたのに、大がかりな美術作品より写真に目が行くというのはどうなんだろう。いま頭に思い浮かべているのは、3年前に同館で公開された村上隆の「スーパーフラット・コレクション」のことだ。400万人近い人口を抱える自治体の美術館が、一個人のコレクションより見劣りするというのはちょっと寂しい。とふと思ったりして。
2019/05/06(月)(村田真)