artscapeレビュー
ヴォ・チョン・ギアの作品を見学する
2019年05月15日号
[ベトナム]
久しぶりにベトナムを訪れ、各地で現代建築を見学した。最大の理由は、ヴォ・チョン・ギアの作品を見学すること。彼は1976年に生まれ、東京大学や名古屋工業大学などで学んだ後、2006年に帰国して事務所を立ち上げ、海外からも注目される活動を展開している。その特徴は緑を抱え込む建築であり、とりわけ竹を使うデザインがよく知られている。例えば、ホーチミンの郊外に新しく建設した自社ビル《アーバン・ファーミング・ハウス(Urban Farming Office)》は、食べられる植物を含むプランターを大量に吊るしたインスタ映えするファサードで事務所スペースを覆う。一方、内部はシンプルで細かいデザインはなく、大きな吹き抜けを中心に挿入している。
初期の作品、《ウィンド・アンド・ウォーター・カフェ(Wind and Water Cafe)》(2006)は、ギアのトレードマークである竹を生かした建築だ。それが囲む水盤と大樹の組み合わせが、心地よい空間を生みだす。またぐるりと湾曲した屋根の構成は、ギアが学んだ内藤廣の《牧野富太郎記念館》も想起させる。この発展形というべき、ハノイの《バンブー・ウィング(Bamboo Wing)》(2009)と《ダイライ・カンファレンス・ホール(Dailai Conference Hall)》(2012)は、細かい竹を束ねていく、純正な竹構造であり、その魅力を引きだした空間に好感を抱いた。他にダナンの《ナムアン・リトリート・リゾート(Naman Retreat / Naman the Babylon)》(2015)で竹の建築をいくつか見学したが、こちらは装飾的な扱いを含む。
やや異色だったのは、大きな靴工場に附属する従業員のための幼稚園、《ファーミング・キンダーガーテン(Farming Kindergarten)》(2013)である。手塚建築研究所の《ふじようちえん》は、屋根に登ることができる楕円のリングによる平屋だが、それを二層化しつつ、ひねったループとし、立体交差させながら、多様で複雑な場をつくる。意外にありそうでなかった構成ゆえに、楽しい空間の体験をもたらす。ベトナムは暑いために日本の《ふじようちえん》と違い、休み時間に屋根の上を走るという感じにはならないようだが、代わりに農地を設けている。もっとも、訪問時にはあまり緑が育っていなかった。ともあれ、緑を使うことは共通しつつ、異なるタイプの作品が存在するが、それは彼が様々な日本人の建築家と共同して設計していることに起因するように思われた。
2019/04/05(金)(五十嵐太郎)