artscapeレビュー
ヴォ・チョン・ギア・アーキテクツと日本人建築家
2019年05月15日号
[ ベトナム]
今回、ベトナムの各地で日本人の建築家と会い、見学を手伝ってもらった。ホーチミンでは、実験的なリノベーションのプロジェクトに挑戦する西島光輔、東京理科大学で小嶋一浩に師事していた佐貫大輔、安藤忠雄の事務所から独立した西澤俊理、そしてハノイでは、現在もヴォ・チョン・ギア・アーキテクツ(VTN)のパートナーをつとめる丹羽隆志である。彼らに共通するのは、全員がヴォ・チョン・ギアに誘われて、ベトナムでいっしょに設計を行なったことだ。なお、ICADAの岩元真明も、元パートナーであり、ファーミング・キンダーガーテンなどを担当している。そうした意味では、ひとりのベトナム人が日本で学んだことがきっかけとなり、じつに多くの日本人がベトナムと縁を持ち、今も現地で設計活動を続ける建築家がいるほか、筆者のようにベトナムに足を運ぶ建築の関係者が生まれたと言える。
VTN+佐貫+西澤による《ビンタン・ハウス(Binh Thanh House)》(2013)は、西澤が設計と現場の管理を担当した二世帯の都市住宅である。下部に施主がそのまま暮らしているが、上部は住民が入れ替わったことにより、現在は地下の天井高が低いガレージを西澤のオフィスに改造しつつ、上層を彼の住居としている。全体の構成としては、宙に曲面をもつコンクリートのヴォリュームを浮かし、そのあいだに風を通す共有スペースを入れる。ベトナムの文脈において現代建築を実現させた力作だった。
佐貫が設計し、自らも暮らす《ビンタンのアパート(Apartment in Binh Thanh)》は、彼がベトナムでスペースブロックを探求したこともあり、細長い敷地において部屋数を抑えつつ、豊かな共有空間のヴォリュームによって、中庭やテラスをかきとる構成が印象的だった。
また彼の新作《NGAハウス(NGA House)》(2018)は、細い路地を進み、街区の真ん中に突如、ヴォイドが旋回しながら、予想外の大空間が斜め上の方向に出現する。ちなみに、ベトナムは施主が天井高を求める傾向があるという。また建物の角を斜めにカットし、直射光を制御する。ゲストルームの数が多いのも、ベトナムの特徴らしい。
2019/04/05(金)(五十嵐太郎)