artscapeレビュー
鈴木理策「WHITE」
2009年08月15日号
会期:2009/05/28~2009/07/11
GALLERY KOYANAGI[東京都]
以前、鈴木理策が雪の結晶の研究で知られる実験物理学者、中谷宇吉郎の『雪』(岩波文庫)を読んでいると聞いたことがある。その探究の成果が、今回の展示で実ったということだろうか。小さなフレームにおさめられた雪の結晶のクローズアップは、愛らしく、しかも凛と澄み切った美しさがある。彼の自然現象に対する畏敬の念と繊細な観察力が、文字通り見事に「結晶」したシリーズである。
雪山を撮影した作品群もいい。樹木に降り積もる雪、白いシルエットとなった樹木、雪山の柔らかな(エロティックな)起伏、夜空から降りそそぐ雪。雪の白と印画紙の白との境界線は、曖昧なままに溶け合い、「WHITE」としかいいようのない豊饒な空白の領域が姿をあらわす。「雪は天からの手紙」というのは中谷宇吉郎の言葉だが、鈴木理策が試みているのは、その自然がそっと差し出す「手紙」を彼自身の身体と写真機とを結合させた、独特の映像言語で読み解くことだろう。その営みは、いまや追随を許さないレベルにまで達しつつあるように思える。
2009/07/01(水)(飯沢耕太郎)