artscapeレビュー
野村仁「変化する相──時・場・身体」
2009年08月15日号
会期:2009/05/27~2009/07/27
国立新美術館[東京都]
日本を代表する現代美術アーティストの一人である野村仁。立体やインスタレーション作品も多いが、彼は本質的には「写真家」なのかもしれないと、代表作を集成した回顧展「変化する相──時・場・身体」を見て思った。彼の方法は、とりあえず流動し変容する世界を写真という画像形成システムにインプットする所から始まる。その場合、被写体が固定している場合と動いている場合、カメラ(眼)が固定している場合と動いている場合があり、その組み合わせは計8通りになる。いったんその組み合わせが決まれば、あとはほぼ自動的に撮影が進み、画像はとめどなく増殖していく。その進行にどこかで区切りを付けるために、秒、分、時、日、年といった時間の単位が導入され、その単位ごとにひとまとまりの作品が成立してくる。
言葉で書くとシステマティックな印象だが、実際にできあがってくる作品は偶発的な意外性にあふれ、網膜を気持ちよくマッサージするチャーミングな美しさを備えている。高度に論理的、知的でありながら何ともユーモラスでもある。とはいえ「見るものすべてを写す」というとんでもない構想によって、ムービーカメラのコマ撮り機能で10年間にわたり撮影した連続写真を、120冊の本の形にまとめた「Ten-Year Photobook 又は視覚のブラウン運動」(1972~82)といった作品には、ほとんど狂気すれすれの画像システムへの没入が垣間見える。刺激の多いラディカルな展示。個人的には、「宇宙はきのこのように発生したか」(1987)という作品を見ることができたのが大収穫だった。
2009/07/26(日)(飯沢耕太郎)