artscapeレビュー
鷹野隆大 公開制作「記録と記憶とあと何か」
2009年08月15日号
会期:2009/05/23~2009/07/20
府中市美術館[東京都]
美術館の一室を、アーティストのアトリエとして開放する府中市美術館の公開制作シリーズ。鷹野隆大は府中市内をモノクロームのフィルムで撮影し、すぐに現像、プリントして展示するという試みをおこなった。期間中に開催された鷹野とのトーク・イベントに参加したのを機会に、壁全面に展示されている作品を見ることができた。
モノクロームでの作品制作は、鷹野にとってもひさしぶりだったという。だがモノクロームの抽象化の作用によって、被写体となる風景のディテールを、しっかりと構造的に把握することが可能となっていた。その結果として見えてきたのは、府中という街の特異な歴史性の蓄積である。もともと弥生時代には既に人が住みついており、のちに国府が置かれることになるこの街のあちこちに、地霊のようなものが立ち上がってくる気配を感じとることができる。さらに近代以降も、刑務所や競馬場や霊園のようなやや特異な社会的機構が絡み合うことで、他にあまり類を見ない厚みのある、多層的な眺めを見ることができる。そのすべてを、短い期間に「記録と記憶」として封じ込めるのは不可能だが、今回の展示では充分にその片鱗を伺うことができた。
それにしても、このところの鷹野の活動ぶりは目を見張るものがある。論理的な構築力(男性原理)と鋭敏で柔らかな受容性(女性原理)を兼ね備えた彼の写真は、ますます面白くなってきている。
2009/07/12(日)(飯沢耕太郎)