artscapeレビュー

2012年08月01日号のレビュー/プレビュー

2012イメージの新様態 no.21「Out of Place」

会期:2012/07/17~2012/07/29

GALLERY SUZUKI、ANTENNA MEDIA[京都府]

GALLERY SUZUKIで毎年開催される恒例の企画展。今年は伊丹市立美術館の藤巻和恵をキュレーターに招き、会場を2カ所に増設して行なわれた。出品作家は、AKI INOMATA(映像、他)、上村亮太(絵画)、川辺ナホ(写真、他)、田口行弘(映像)の4名。私のお気に入りはAKI INOMATAで、やどかりに自作の小オブジェを提供する《やどかりに『やど』をわたしてみる》や、ペットのインコが本人より先にフランス語のフレーズを覚えてしまう《インコを連れてフランス語を習いに行く》は、どちらも傑作だった。もちろんほかの3人も秀作ぞろいで、見応えあり。2つの会場は少々離れており移動が手間だったが、それを補って余りある充実した展覧会だった。

2012/07/17(火)(小吹隆文)

作田富幸 展

会期:2012/07/13~2012/07/29

アートゾーン神楽岡[京都府]

作田は銅版画家で、主に首都圏で活動している。彼の主題は「人間」もしくは「人間の顔」で、私は本展で初めて彼の作品を見た。出品作品のメインは《20 visitors》と題された全身像のシリーズと、《100 faces》と題された9点組の大作である。後者は、はがき大の小品100枚を制作し、36点貼り付けたパネルを1ピースとするもの。うち4ピースには手彩色が施されている。人間を描くといっても、作田は具象作家ではない。大木の枝が顔になったり、全身が引き出しだらけ、眼だらけなど、どの作品も異形の姿をしているのだ。それらを見て、ボッシュやアルチンボルドの作品を連想する人もいるだろう。あらゆる形態やモチーフをも使って人間を描き切ろうとするその姿勢には、凄みすら感じられる。

2012/07/17(火)(小吹隆文)

バーン=ジョーンズ展──装飾と象徴

会期:2012/06/23~2012/08/19

三菱一号館美術館[東京都]

エドワード・バーン=ジョーンズ(1833-98)は聖職者を目指してオクスフォード大学に入学したものの、そこでウィリアム・モリス(1834-96)と出会い、芸術家の道を歩むことになった。1861年にはモリスらと共同でモリス・マーシャル・フォークナー商会を発足させ、ステンドグラス、タイル、タペストリーなどの工芸品のデザインを多数手がけている。このような経緯もあり、これまでバーン=ジョーンズの仕事はモリスやラファエロ前派との関わりで紹介されることが多かったが、この展覧会は絵画作品を中心にバーン=ジョーンズの全貌に迫る企画である。
 展示はおもに描かれた主題別に構成されている。バーン=ジョーンズは生涯のうちに同じ主題を幾度も取り上げている。たとえば今回の展示の目玉のひとつである《眠り姫》は、1860年代初めから30年にわたって繰り返し描かれたテーマであった。またひとつの作品を完成させるまでに時間がかかり、古代ローマの花の女神を描いた《フローラ》は着手から完成までに16年もの歳月を要している。そのために、時系列に作品を紹介するよりも、関心の所在に焦点を当てた今回の構成は彼の創作活動の特徴を明らかにしているといえよう。
 表現手法という点では、バーン=ジョーンズの作品は様式的、平面的である点に特徴がある。また主題は静的で、画家の恣意によって四角い画面のなかにきっちりと収められ、カンバスの外側の世界を想像させない。たとえば、《大海蛇を退治するペルセウス》の海蛇の長い身体の扱いにそれを見ることができる。また作品は一枚で完結するのではなく、連作の形で物語を構成している。こうした表現様式は、彼が装飾芸術に深くかかわっていたことからもたらされたといわれる。モリスのもとで手がけたタイルやステンドグラス、タペストリーなどの平面的な装飾作品と、絵画作品とは彼のなかで明確に区別されるものではなかった。そして絵画作品もまた、多くはパトロンの邸宅を飾る室内装飾の一部として描かれたものであった。このような条件が彼の作品をロセッティやミレイとは異なる独特のものにしている。
 バーン=ジョーンズが描いた主題の多くは、中世の騎士物語などの文学作品や古代ギリシャ・ローマの神話から着想を得たものである。過去の世界への傾倒は、都市の貧困や環境の悪化など、ヴィクトリア朝時代の物質的繁栄がもたらした負の側面に対する批判であり、抵抗であり、そこからの逃避であった。画家たちが19世紀の現実に対抗するものとして中世の物語にユートピアを見出す一方で、社会の変化によってもっとも利益を得たであろう商人や実業家たちが画家たちのパトロンになった。「このパトロンたちは、長時間金勘定をしたり、機械の騒音を聞きながら過ごしたあとで、家に帰ると極めて想像力にあふれて色彩に富む絵画に出迎えられ、それによって商業の抑圧から解放されるというわけだった」★1。パトロンたちもまた自分たちがつくりだした現実からの逃避を望んでいたというのはなんとも皮肉なことである。[新川徳彦]

★1──ビル・ウォーターズ、マーティン・ハリスン『バーン=ジョーンズの芸術』(川端康雄訳、晶文社、1997)、136頁。

2012/07/18(水)(SYNK)

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奇っ怪紳士!怪獣博士! 大伴昌司の大図解 展

会期:2012/07/06~2012/09/30

弥生美術館[東京都]

大伴昌司とは何者であったのか。さまざまな分野で才能を発揮したこと。自分について多くを語らなかったこと。そのうえ、彼は「何者か」になる前に、36歳の若さで逝ってしまった。知人、友人、仕事を共にした人々の証言にも、いったい彼は何者だったのかという疑問が繰り返されている★1。膨大な知識を収集、蓄積し、仕事に応じてそれらの新しい組み合わせを提案する。すなわち編集者、プランナーといえば彼の仕事のイメージがつかめようか。この展覧会では、子ども時代から学生時代の姿、そして亡くなるまでに手がけた数々の仕事を丹念に追うことで、大伴昌司という人間の全貌をさぐる。
 多彩な仕事のなかでも人々に大きなインパクトを与えたのは、昭和40年代の『少年マガジン』誌で展開された大図解シリーズであろう。端緒は怪獣だった。テレビ番組「ウルトラマン」に登場する怪獣たちが、どのような能力を持っているのか、なぜ火を噴いたり超音波を発したりできるのか。大伴は空想上の存在である怪獣を、あたかも実在の生物や機械であるかように徹底的な図解を試みた。怪獣のほかにも、特撮映画に登場する基地や乗り物なども解剖されたが、それらが必ずしも公式の設定ではなく、大伴とイラストレーターたちによって生み出されたオリジナルな世界であるという点には驚嘆させられる。ただし、大伴にとっては空想の世界も現実の世界も、たいして区別はなかったようだ。大伴が『少年マガジン』の巻頭で展開したテーマにはSF的な未来像も描かれれば、地方の伝説も取り上げられている。また、「大空港」や「深夜ラジオ」といったテーマは、現実社会の裏方を豊富な写真で紹介する企画である。こうした彼の仕事のなかに一貫性を見出すとすれば、第一に二次創作が挙げられる。すなわち、彼はすでに存在するものの周辺に独自のストーリーを付け加え、オリジナルの世界をいわば勝手に拡張していった。大伴昌司が元祖オタクとも呼ばれる所以である。もうひとつはビジュアル・ジャーナリズムである。『マガジン』で展開した手法を大伴は「テレビの印刷媒体化されたもの」と語っている。彼にとってイラストや写真はブラウン管の映像であり、テキストは音声、ナレーションであった。大図解とはテレビ的表現を雑誌メディアに置き換えるという実験的手法であった。
 大伴昌司の新しさはどこにあったのだろうか。SF作家たちは空想の世界にリアリティを持たせるため、さまざまな事象が合理的に見えるように説明しようと腐心してきた。現実の生物や機械などを図解する手法は古くから存在した。怪獣は大伴の創造物ではない。大伴は多数のスケッチを残したが、誌面で使用する絵を描いたわけではない。大伴が写真を撮ったわけでもない。となれば、大伴はさまざまな人々の仕事を結びつけたに過ぎないという言いかたもできるかもしれない。しかし、大伴が取り上げたようなテーマを、大伴が行なったような手法で展開した者はそれまでにはいなかった。雑誌メディアに途を切りひらき、のちの人々のために新たな表現手法を残したという点において、大伴昌司は天才的な編集者、プランナーであったのだ。
 大伴昌司による多数のスケッチのほか、横尾忠則、みうらじゅんらが寄稿している図録★2は同時代の文化を知る資料としても貴重である。[新川徳彦]

★1──竹内博編『証言構成〈OH〉の肖像──大伴昌司とその時代』(飛鳥新社、1988)。
★2──堀江あき子編『怪獣博士! 大伴昌司──「大図解」画報』(河出書房新社、2012)。



左=「2大怪獣強さのひみつ」(『少年マガジン』昭和41年7月10日号、講談社)、遠藤昭吾/画、©円谷プロ
右=「バルタン星人」ウルトラ怪獣内部図解(昭和41年)、大伴昌司/画、©円谷プロ

2012/07/18(水)(SYNK)

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アン・グットマンとゲオルグ・ハレンスレーベンの世界──リサとガスパール&ペネロペ展

会期:2012/07/14~2012/08/26

明石市立文化博物館[兵庫県]

フランス在住の絵本作家アン・グットマンとゲオルグ・ハンスレーベンが生み出した絵本『リサとガスパール』と『ペネロペ』の原画展。油彩による原画は、鮮やかな色彩と繊細な筆づかいをあますところなく伝える。観ているうちに、絵本の原画というより絵画作品を鑑賞しているような感覚を覚えた。不思議なのは、キャラクターたちがぬいぐるみのように図式化されて、その表情が意図的に排除された造形でありながら、どこか人間くささを感じさせることだ。展覧会チラシによれば、『リサとガスパール』は「犬でもうさぎでもない不思議ないきもの」とあり、そうしたなににも分類しがたい曖昧さは、作者自身の意図するところであるのかもしれない。不思議なキャラクターたちは、印象派風のスタイルとフォーヴィスムの絵画を想わせる色彩に溢れたパリの日常風景にすんなり溶け込んでいる。その風景もまた、実際のリアルな風景と絵本のヴァーチャル世界のあいだを行き来するものであるかに思える。本展には絵本原画のほかに、作家が使用したパレットや絵具、仕掛けのある絵本のための指示書なども出品されており、絵本の発想やプロセスの一端がわかって面白い。[橋本啓子]


『リサとガスパール デパートのいちにち』
Hachette Livre � 2003 Anne Gutman and Georg Hallensleben

2012/07/19(木)(SYNK)

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2012年08月01日号の
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