artscapeレビュー
2012年09月15日号のレビュー/プレビュー
特別展「ボストン美術館 日本美術の至宝」
名古屋ボストン美術館[愛知県ほか]
会期:2012/06/23~09/17(前期)、2012/09/29~12/09(後期)
「ボストン美術館 日本美術の至宝」展は、奈良時代から近世までの作品を紹介するが、改めて日本美術の質の高さに感心させられる。ヘタな現代美術よりも、はるかに良い。最後のパートはあまり知らなかった画家、曽我蕭白に焦点をあてるが、写実レベルの操作、構図のダイナミックさ、空間をつくる絵のスケール感は圧倒的だ。それにしても、これらの作品群は、占領され、略奪されたわけでもないのに、アメリカに流出したものである。廃仏毀釈のあおりをくらった仏教美術や価値が発見されない近世の絵画など、当時の日本にあきれるが、現に建築の重要な資料なども海外で買われている今のわれわれには笑えない。
2012/08/19(日)(五十嵐太郎)
松本央「Beast Attacks!! 2──over drive」
会期:2012/07/10~2012/08/31
BAMI gallery[京都府]
自画像を描き続ける松本央の新作展。市場原理主義という名の下に大量生産、大量消費を繰り返し、ますます肥大化していく世界経済の消費システム。それにも麻痺し欲望を満たそうとする現代人の“野獣化”を、前回の個展「Beast Attacks!!」に引き続き、自画像で表現した作品を発表した。獣のように肉に喰らいつく若者達や、いわゆる社会通念的「不良」(を思わせる)グループなど、画面に描かれた暴力的で邪悪なイメージの人々はどれも作家自身で、自画像でもある。不穏な雰囲気に包まれていて怖いのだが、その迫力は彼の画力が裏打ちするものでもあり、じっくりと眺めてしまう。前回の個展ではこのような毒っ気の強烈な作品の印象が強かったのだが、今展には、それらとはずいぶん趣きの異なる作品もあった。《ALBINO(アルビノ)》や鉛筆のドローイングだ。いずれも鬱蒼としているというのか疲弊した表情で、見る者をその幻滅の深みに引き込むかのような眼がとても魅力的であった。たいへん解りやすいテーマの個展シリーズだが、前回よりも表現の幅が広がって豊かなものになっていた。今後も楽しみ。
2012/08/20(月)(酒井千穂)
UNKNOWNS
会期:2012/08/20~2012/08/25
藍画廊+ギャラリー現[東京都]
東京造形大学の近藤昌美教授が選んだ4人の学生の作品に、慶応義塾大学の近藤幸夫ゼミの学生がテキストをつけるという近藤×近藤の試み。藍画廊には大久保薫、高山夏希、生井沙織の3人、ギャラリー現には北島麻里子ひとりが展示している。名前だけ見ると全員女性かと思うが、大久保のみ男性。興味深いのは、大久保の絵が一見3コマ漫画みたいに物語性があるかに見えて、その実ペインティングそのものに重点を置いているのに対し、ほかの3人は逆に描かれたものより、その背後にある物語性(または思想性)を重視しているように感じられること。もちろんどちらがいいというわけではないし、またそれが性差によるものかどうかは知らないが。しかし毛髪や血液を画材に使ったり、愛犬の遺骨を粉にして固めたりする北島の作品は、なかなか男は発想しないと思う。会場では近藤ゼミによるテキスト(表紙は「作品批評」だが中身は「作品解説」)が配られていたが、これを読んでつくづく感じるのは、やっぱり書くより描くほうがエライというか強いというか楽しいというか。
2012/08/20(月)(村田真)
斉と公平太『CHOJAMACHI 第一巻』
発行日:2012年7月
アートラボあいちにて、あいちトリエンナーレ2010の出品作家、斉と公平太さんのゆるキャラ、長者町くんの漫画『CHOJYAMACHI』を購入する。小難しいアート漫画ではなく、ロボット、看守、不幸の手紙支配人も登場し、けっこう笑える内容だ。Facebookでも読めるが、紙媒体の方がゆるさを強く感じることができる(http://t.co/zP3m1Nd2
2012/08/20(月)(五十嵐太郎)
「戦争と宣伝」阿智村ポスターが語る
会期:2012/07/28~2012/09/02
長野県立歴史館[長野県]
長野新幹線で上田に出て、しなの鉄道に乗り換えて屋代駅で下車、そこから徒歩で25分かかるのだが、炎天下を歩くのはツライので駅でチャリを借りてようやく長野県立歴史館に到着。なんでこんな山奥の、でもないか、風光明媚な場所に来たかというと、そのあとで越後妻有に行くという「ついで」もあるが、ここで開催中の企画展「戦争と宣伝」をパフォーマンス・アーティストの霜田誠二がワケあってススメていたからだ。この展覧会、同県の阿智村の土蔵に残されていた第2次大戦中のプロパガンダポスターを公開するもの。これら国策宣伝ポスターは敗戦後に焼却命令が出たが、当時の村長が密かに保存していたという。ポスターは計135点あり、うち約70点を国民精神総動員、貯蓄奨励、志願兵徴募などに分類展示し、あわせて先行する欧米のポスターなどを例に、いかにプロパガンダポスターがつくられたかも検証している。ポスターの大半は名もない図案家による素朴なイラスト系が占め、それはそれで当時の日本の美意識がうかがえて感慨深いものだが、なかには横山大観や竹内栖鳳らの絵画に基づいたものや、当時としては斬新な写真を組み合わせたポスターなどもあって興味は尽きない。レアもの中のレアものは、「海軍志願兵徴募」の「昭和21年度採用」と書かれたポスター。これは敗戦の昭和20年8月以前につくられたものだろうが、海軍はこの期におよんでまだやる気満々だったのか。大きな展覧会ではないが、見ごたえのある意義深い企画だった。さてこれから長野に出て、飯山線でちんたら越後妻有へ。
2012/08/23(木)(村田真)