artscapeレビュー

2012年09月15日号のレビュー/プレビュー

福島現代美術ビエンナーレ2012

会期:2012/08/11~2012/09/23

福島空港[福島県]

郡山からバスに乗って福島空港へ。なんでこんなローカル空港でビエンナーレが開かれるんだ?ってより、そもそも福島でビエンナーレをやってること自体つい最近まで知らなかったが、もうすでに5回目らしい。企画運営を担っているのは福島大学の渡邊晃一准教授と学生たちで、おそらく予算も人手も足りず、広報まで手が回らないのだろう。だいたい直前に立ち寄った福島県立美術館でさえポスターもチラシも見かけなかったし。とくに今回はヤノベケンジ、オノヨーコ、河口龍夫らそうそうたるアーティストが出品しているだけに、もったいないの一言。展示は空港ビルのロビーや空きスペース、空港向かいの庭園、国際貨物施設(ここには椿昇らの作品があるらしいが見逃してしまった)など。なんといっても目立つのは、空港ビルのエントランス脇にそびえ立つヤノベケンジの《サン・チャイルド》。福島原発事故後に制作した高さ6メートルの巨大な子どもの像で、黄色いアトムスーツに身を包みながらもヘルメットは外し、顔は傷だらけだけど目はキラキラと輝いている。まさに福島のビエンナーレのためにつくられたと錯覚しそうな作品だ。ヤノベはほかにもアトムスーツを着たフィギュアをあっちこっちにまぎれ込ませて空港ビルを制圧したが、予算がないためサポーターを募って資金をつくり、ようやく実現したという。ヤノベ以外では、暗箱をのぞくと向こうの風景が絵画のように切りとられて見える母袋俊也の《絵画のための垂直箱窓》を、場所を意識した作品として特記しておきたい。

2012/08/11(土)(村田真)

松江泰治「世界・表層・時間」

会期:2012/08/05~2012/11/25

IZU PHOTO MUSEUM[静岡県]

松江泰治が静岡県各地を空撮した「JP-22」(2005)で、初めてカラー作品を発表したときにはかなり驚いた。松江といえば、緻密なモノクローム作品というイメージが強かったからだ。さらに2007年、作品の一部に写り込んでいる人物を極端なクローズアップで浮かび上がらせた「cell」シリーズを発表したときにもびっくりした。そういうトリッキーな仕掛けをこらした作品を出してくる作家とは思っていなかったからだ。だが、それ以後の彼の仕事を見ていると、ひとつのコンセプトを厳密に追い求めるというよりも、制作のプロセスを愉しみつつ、写真表現のさまざまな可能性にチャレンジしていくというのが、彼の本来の資質なのではないかと思い始めた。
その姿勢は、今回のIZU PHOTO MUSEUMでの個展でも見事に貫かれていた。特に目立つのは、写真作品と映像作品とを組み合わせていくインスタレーションである。映像作品はすでに2010年のTARO NASUでの個展「Survey of Time」で見ることができたのだが、今回は質的にも量的にもより大きな位置を占めるようになってきている。つまり、従来の「世界」の「表層」を引き剥がすように収集していく静止画像に「時間」の要素が加わることで、より偶発性の強い、実に味わい深い作品に仕上がっているのだ。映像作品のなかをかなり速いスピードで走り過ぎていく自動車(「DXB 112294」)、ガラス窓をつたう雨滴(「MAN 12840」他3点)、不意に画面を横切る子どもたち(「JUTLAND 112361」)などからは、松江の世界を新たな角度から見つめ、驚きに溢れるイメージを発見することの歓びがストレートに伝わってくる。
静止画像の写真作品でも、これまでのような距離を置いた俯瞰的な構図だけではなく、より融通無碍に世界を見渡す姿勢が強まっていることに注目すべきだろう。展示の最初に掲げられていた「MCT 17451」は、貝殻や小石がちらばった海辺の地表をかなり近距離から撮影したものだし、『NORWAY 18243』「同18148」「同18149」には、フィヨルドに停泊する大きな客船が横向きに写っている。松江の作品世界はたしかに拡大しているが、それが散漫な拡張であるようには見えない。むしろ「地名の収集家」としてのテンションと集中力は、より高まっているのではないだろうか。
なお、東京・馬喰町のギャラリー、TARO NASUでは、カラー写真で青森県と秋田県を空撮した「jp0205」シリーズが展示された(8月31日~9月21日)。ここでも風景を観察し、切りとって提示することの歓びが、軽やかに発揮されている。

2012/08/11(土)(飯沢耕太郎)

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辰野登恵子/柴田敏雄「与えられた形象」

会期:2012/08/08~2012/10/22

国立新美術館企画展示室2E[東京都]

取り合わせの妙というべき展覧会だ。辰野登恵子は油彩による抽象画、柴田敏雄は緻密かつスケール感のある風景写真で、それぞれすでに高い評価を受けているアーティストだが、この二人の作品を一緒に展示するということは、普通は思いつかないだろう。ところが、あまり知られていなかったことだが、辰野と柴田は東京藝術大学絵画科油画専攻の同級生(1968年入学)だったのだ。在学中には、同じく同級生の鎌田伸一を加えてコスモス・ファクトリーというグループを結成し、シルクスクリーン作品を中心に発表していた。卒業後はまったく違う道を歩むのだが、辰野と柴田のアーティストとしての活動は同じ母胎から出発したと言えるだろう。
実際に彼らの作品を見ると、意外なほどに共通性があることに気がつく。画面を大づかみな色面のパターンとして把握し、構築していくやり方は、メディウムの違いを超えてかなり似通っている。特に2006年以降、柴田がそれまでのモノクロームからカラーにフィルムを変えてからの作品は、基本的な世界の見方に同一性があるのではないかと思ってしまうほどだ。今回の展示を見てあらためて強く感じたのは、辰野が展覧会のカタログにおさめた対談(「偶然と必然、選択と創作~コスモス・ファクトリーから国立新美術館まで~」)で指摘しているように、柴田が「絵描きの目でカメラを扱っている」ということだった。柴田がもともと優れたデッサン力を持つ「絵描き」だったことは、難関の東京藝術大学絵画科に現役で入学したということからもわかる。たしかに彼の写真を見ていると、目の前の事物を二次元の平面に置き換えていくプロセスが、「絵描きの目」で、力強く、絶対的な確信を持って成し遂げられていることがわかる。辰野が言うように、柴田の写真作品を「絵がやり損なったというか、立ち往生しているポイントに光をあて、写真で絵になっている」という側面から見直す必要があるのではないだろうか。

2012/08/12(日)(飯沢耕太郎)

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せんだいスクール・オブ・デザイン 2012年度春学期成果発表会

会期:2012/08/12

せんだいメディアテーク 1Fオープンスクエア[宮城県]

せんだいスクールオブデザインの学外発表会にて、五十嵐スタジオの制作物『S-meme』の4号のお披露目を行なう。今回の特集は「現代美術と地域」を考えるというもの。あいちトリエンナーレ2013のチームを招き、小崎哲哉の「越境するパフォーミングアーツ」論、キュレータの飯田志保子のアジアパフィシックトリエンナーレ論を掲載したほか、村上タカシのレクチャー、街なかに点在するパブリックアートやグラフィティのフィールドワーク、仙台美術の状況と歴史などを収録した。またせんだいメディアテークで開催された「荒木飛呂彦原画展 ジョジョ展 in S市杜王町」展のメイキングに関わる原稿は大いにもめたが、地方でアートと商業に関わる展覧会の難しさを再認識することになった。

2012/08/12(日)(五十嵐太郎)

プロメテウス

会期:2012/08/24

リドリー・スコット監督の映画『プロメテウス』を見る。前半は宣伝で強調された人類起源の謎という昔風の大仰なSF的な設定でひっぱり、後半は「エイリアン0」か「エイリアン・ジェネシス」というべき前日譚の内容に変わってしまう(やはり女は強い)。「エイリアン」のシリーズを順番に見てきた世代にはそれだけで楽しい。改めて第一作におけるギーガーのデザインは傑作だったと再確認した。劇中では古代神殿のような空間や第一作と同じような宇宙船が登場するが、未来と過去が交差する表現としては先駆的と言える。

2012/08/13(月)(五十嵐太郎)

2012年09月15日号の
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