artscapeレビュー
2014年07月15日号のレビュー/プレビュー
田中信太郎 岡崎乾二郎 中原浩大「かたちの発語展」
会期:2014/04/25~2014/06/22
BankART Studio NYK[神奈川県]
BankART Studio NYKの「かたちの発語展」を訪れる。田中信太郎、岡崎乾二郎、中原浩大のかたちへの思索をめぐる作品を紹介するものだ。世代やアプローチの違う作家を組み合わせるキュレーションが興味深い。カタログも、三人それぞれに濃い内容だ。形態の模索ゆえに、建築やデザインなど、異ジャンルへの補助線も引ける。例えば、田中と倉俣史朗。あるいは、漢字と建築をテーマにしたヴェネツィア・ビエンナーレ建築展の日本館における岡崎の作品。
2014/06/08(日)(五十嵐太郎)
荒木経惟「往生写集──顔・空景・道」
会期:2014/04/22~2014/06/29
豊田市美術館[愛知県]
この欄でも荒木経惟の凄さについて何度も書いてきたのだが、豊田市美術館の「往生写集──顔・空景・道」を見て、今さらながら感嘆せずにはおれなかった。もちろん、いい仕事をしている写真家はたくさんいる。だが、写真家という存在のあり方を、荒木ほど全身全霊で全うし続けている写真家は他にいないのではないだろうか。
展示は2部に分かれていて、1963年の「さっちんとマー坊」から99年の「Aの楽園(チロ)」に至る第1部「顔・空景」の作品群は、ほぼ回顧展的な構成である。「地下鉄72」(1972年)、「裔像」(1978年)、「富山の女性」(2000年)など、これまで美術館での展覧会にはあまり出品されてこなかったシリーズも含まれているが、作品の選択、展示の仕方に意外性はほとんどない。
問題はむしろ第2部の「道」である。こちらは新作が中心なのだが、これまでの「荒木世界」を打ち壊し、再構築していくエネルギーの凄みに圧倒された。「遺作 空2」(2009年)、「チロ愛死」(2010年)など既発表の作品もあるが、2013年撮影の新作「道路」と「8月」は、表現者・荒木経惟の底力をまざまざと見せつける傑作である。新居から見下ろした路上を定点観測的に撮影した「道路」を見ていると、身近な光景が彼岸からの眺めのように見えてきて背筋が寒くなる。「8月」は金槌でカメラのレンズを叩き割って撮影した写真群。「フクシマを引きずって、フクシマがあったから、どうしてもどうしても素直に撮れない。だからレンズをぶっ壊す。ぶっ壊してそれで撮る」ということでできあがった作品だ。
前立腺癌の手術、右目の失明といった事態を受け入れつつ乗り切ることで、荒木の創作エネルギーはふたたび高揚期を迎えつつあるのではないだろうか。夏から秋にかけて、同じく「往生写集」のタイトルで開催される資生堂ギャラリー「東ノ空・P(鏡文字)ARADISE」、新潟市美術館「愛ノ旅」の展示も楽しみだ。
2014/06/10(火)(飯沢耕太郎)
ミッション[宇宙×芸術]──コスモロジーを超えて
会期:2014/06/07~2014/08/31
東京都現代美術館[東京都]
ロケットの部品や模型もあれば、衛星がとらえた地球の映像もある。松本零士の宇宙漫画もあれば、ポカリスエットの宇宙CMもある。大きな展示室を丸ごと使って数千万もの星を映し出すスーパープラネタリウムには、大勢の観客が寝ていた。逢坂卓郎や名和晃平らの「美術作品」がなければ「宇宙博」と変わらない。子どもから大人まで、カップルもアートおたくも少しずつ楽しめる。裏返せば、あれこれありすぎて中心が見えず、全体として統一感に欠けるということだ。つまみ食いはできるけど、結局メインディッシュがなんだったのかよくわからない展覧会。
2014/06/10(火)(村田真)
トーキョーワンダーウォール公募2014入選作品展
会期:2014/06/07~2014/06/29
東京都現代美術館[東京都]
以前に比べてイラストみたいな絵は減ったけど、図抜けた作品も減った気がする。ちょっといいなと思っても、ミヒャエル・ボレマンスの真似だったりして(約2名)油断できない。情報の早さと模倣の技術には感心するけどね。ボードにスケッチやメモみたいなものをペタペタ貼った大人倫菜の《絵画における私の45日間の冒険》には惹かれるものがあった。
2014/06/10(火)(村田真)
見晴らす展
会期:2014/05/30~2014/06/22
ポーラミュージアムアネックス[東京都]
サブタイトルは「日本のけしきを彫る人 田中圭介」。木の固まりから風景をジオラマ的に彫り出してる。わざわざ「日本のけしき」としているのは樹木が生い茂ってる風景だからだろう。ふつう木彫というのは森から切り出した角材を彫っていくのに、これは角材から森を彫り出していくところがふつうじゃない。ふつうじゃないのはほかにもあって、風景なのに縦長の角材や額縁みたいな木枠から彫り出したり、樹木だけでなく川や雲(や噴煙?)みたいな液体・気体まで彫ったりしてること。木彫のルーツ(森)をたどりつつその限界を突破しようという意志が感じられ、しかもそれをたしかな技術でわかりやすくかたちに表わしている。これは高得点。でも一歩間違えればつまらない工芸品に陥りかねない危うさもある。
2014/06/10(火)(村田真)