artscapeレビュー
2014年07月15日号のレビュー/プレビュー
せんだいスクール・オブ・デザイン メディア軸♯5 大山顕レクチャー「ままならなさへのまなざし」
会期:2014/06/19
東北大学片平キャンパス都市建築学専攻仮設校舎SSDプロジェクト室2[宮城県]
せんだいスクール・オブ・デザイン2014年度春学期PBLスタジオ1メディア軸にて、大山顕のレクチャー「ままならなさへのまなざし」を行なう。彼が大学時代に工場に興味をもったいきさつから、団地、ジャンクション、高架下、クリスマスの浮かれ電飾など、現在に至るまでの観察の活動がまとめて紹介された。建築が陥りがちな作家主義を排したところから、当たり前だと思っている風景をいま一度じっくり観察することから、豊かな世界が目の前に広がっていく。土木ファン層の開拓や、ときには貸し切りバスを使う現地見学会のイベントの話も興味深い。
2014/06/17(火)(五十嵐太郎)
ヴァロットン──冷たい炎の画家
会期:2014/06/14~2014/09/23
三菱一号館美術館[東京都]
ヴァロットンは美術史の主流に躍り出ることはなかったけど、知る人ぞ知る、ある意味もっとも「おいしい」立場にいる画家かもしれない。その微妙な立ち位置や、一風変わった造形的センスは、同じスイスのホドラーやバルテュスとどこか似ている。この3人が今年日本で紹介されるというのも偶然ではないだろう。肖像画家から出発したという端正な人物画をはじめ、浮世絵の影響が指摘できそうな大胆な構図の風景画、ときおりマンガチックな木版画、古典的なのに斬新なヌード画まで、けっこう楽しむことができた。こういう埋もれかけた画家をもっと発掘してほしいものだ。
2014/06/17(火)(村田真)
佐藤翠 展「A June House」
会期:2014/06/02~2014/07/04
第一生命南ギャラリー[東京都]
計9点の展示。正面の壁にはカーペットを描いた200号の大作が3点並び、1点はカーペットらしい装飾が施されているが、あと2点はほとんど抽象画。ほかに、壷、靴、皿などが並ぶ棚を描いた100号3点と80号1点、上に靴、下に服が並ぶクローゼットが1点。残る1点は異質で、S130号に花のある風景を描いているが、正方形のせいかクリムトを想起させる。気づくのは、花を除けば、カーペットも棚もクローゼットもすべてモチーフは矩形で、それを正面からとらえて画面にぴったし収めていること。つまりカーペットや棚の輪郭が画面の枠に一致しており、カーペットの柄や棚の内容がそのまま絵柄、絵の内容にスライドしているのだ。形式と内容の過不足のない一致、と書くと窮屈そうに聞こえるかもしれないが、佐藤の優れたところはそんな「不自由さ」を微塵も感じさせない点にある。
2014/06/17(火)(村田真)
せんだいスクール・オブ・デザイン Interactiveレクチャー♯2 江坂恵里子「“コ・クリエイション”で都市をデザインする」
会期:2014/06/19
house/阿部仁史アトリエ[宮城県]
せんだいスクール・オブ・デザイン2014年度春学期のInteractiveレクチャーは、仙台の将来へのヒントにすべく、今期は「地域からデザインをおこす」ことをテーマとしている。そこで名古屋の国際デザインセンターの海外ネットワークディレクターをつとめる江坂恵里子をゲストに迎えた。名古屋はデザイン都市宣言を行い、ユネスコの創造都市ネットワークで、神戸とともにデザイン都市として認定されていることから、さまざまに国際的な活動を展開している。その鍵となるのが、彼女だ。歴史を振り返ると、名古屋は1988年のオリンピックの誘致に失敗し、その代わりにデザイン博を開催したことから、こうしたデザインへの流れが生まれている。もしオリンピックが来ていたら、なかった可能性も高い。
2014/06/19(木)(五十嵐太郎)
現代美術のハードコアはじつは世界の宝である展 ヤゲオ財団コレクションより
会期:2014/06/20~2014/08/24
東京国立近代美術館[東京都]
台湾の電子部品メーカーのCEOピエール・チェンが設立したヤゲオ財団のコレクション展。コレクションは台湾のアーティストから始まり、中国、欧米の現代美術へと広がっていったという。何人か挙げると、ロスコ、ベーコン、ウォーホル、リヒター、キーファー、ジョン・カリン、ピーター・ドイグ、グルスキー、ザオ・ウーキー、杉本博司、蔡國強といった顔ぶれ。あまり脈絡がないというか、選択の基準は「値が急上昇してるもの」じゃないかと勘ぐりたくなる。作品としてはオペラシティで紹介された石川コレクションのほうがおもしろかった。むしろ「美的価値」だけでなく「市場価値」を加味した展覧会の構成に興味がわいた。チラシや解説で作品の美的価値をたたえつつ市場価値をほのめかしたり(市場価値が美的価値を後押しする?)、もっと露骨に50億円で作品を買うゲームを用意したり。カタログもパートごとに扉の上段は美的価値、下段は市場価値の話題に書き分けている。つまり二枚舌。巻頭の財団理事長ピエール・チェンへのインタビューはつまらないが、その裏版ともいうべき保坂健二朗氏のQ&A「なぜ美術館でコレクターの展覧会が行われ、現代美術が『世界の宝』と呼ばれたのか?」は近年稀に見るおもしろさだった。とくに最後の「美術館とコレクターの関係」は目からウロコ。展覧会のカタログを(しかも国立美術館の)こんなにわくわくしながら読んだのは何十年ぶりだろう。いやー近美も変わったもんだとつくづく思う。いい意味でね。
2014/06/19(木)(村田真)