artscapeレビュー

2014年07月15日号のレビュー/プレビュー

岸幸太「もの、せまる」

会期:2014/06/13~2014/07/06

photographers' gallery[東京都]

岸幸太の今回の展示は、大阪・西成地区で採集した「もの」を大伸ばしした5点のモノクロームプリント。バナナの皮、訳の分からない金具と小銭、段ボール箱、「南部鉄器 文鎮」と記されたパッケージなどが、地面に落ちている様をクローズアップで撮影している。どうということのない「もの」たちの来歴が、じわじわと滲み出てくるように感じる。隣接するKULA PHOTO GALLERYでは、同時期に撮影された大量の「もの」の画像を、スライドショーで上映していた。
だが、メインの展示以上に面白かったのは、会場に置かれていた『GAREKI Heart Mother』と名づけられたポートフォリオ・ブックの方だった。岸は2013年3月から9月にかけて5回ほど、福島県楢葉町、浪江町、南相馬市の海岸に出かけ、そこに落ちていた瓦礫を拾い集めて、奇妙なオブジェを作り上げて撮影した。木切れ、網、布、プラスチック製品、ぬいぐるみなどが、危なっかしいバランスを保って積み上げられている。『GAREKI Heart Mother』というネーミングは、いうまでもなくピンク・フロイドの「原子心母」(Atom Heart Mother)から来ている。これも原発事故の現場に近い場所にふさわしいものだ。
ある場所で見出された「もの」を、その場で作品化して、撮影するというサイトスペシフィックな行為は、批評性を含み込むだけではなく、何が出てくるのかわからない面白さがある。岸が次に同じ場所に行ってみると、以前作ったオブジェが半ば崩壊していることが多かった。その状態のまま、あるいは作り直して撮影する場合もあったという。実は2014年3月10日~20日に、実際にオブジェを再現したインスタレーションをphotographers' galleryで展示したこともあった。だが、それはやや意味合いが違ってくる気がする。この作品においては、いつの間にかでき上がっていては消えていくという、「はかなさ」がむしろ重要なのではないだろうか。

2014/06/25(水)(飯沢耕太郎)

せんだいスクールオブデザイン メディア軸♯5 ディスカッション+祐成保志

会期:2014/06/25

東北大学片平キャンパス都市建築学専攻仮設校舎SSDプロジェクト室2[宮城県]

SSDのPBL3メディア軸の新しい建築ガイドをつくるスタジオで、講師の磯達雄、星裕之らの受講生とともに二度目のフィールドワークを行なう。定禅寺通りの山下寿郎による東京エレクトロンホール宮城(県民会館)から出発したが、仙台市役所や藤崎百貨店も同じ設計者によるものだ。今回は街区よりも小さいマイクロ・ブロックの単位で、普段は素通りするような普通の建物も詳細に観察することを心がけ、スローウォーク並みにゆっくりとしか、通り沿いに移動できない。が、そこに1960~80年代から現在のデザインが積層し、50年代の記憶も見つかるのは興味深い。とくに竹中工務店が設計した黒い仙台第一生命ビルや、岡田新一が手がけた鹿島建設東北支店は、1970年頃に出現したカッコいい建築だった。

2014/06/25(水)(五十嵐太郎)

手塚治虫×石ノ森章太郎 マンガのちから

会期:2014/05/31~2014/07/27

宮城県美術館 本館展示室3・4[宮城県]

宮城県美術館にて、手治虫と石ノ森章太郎の二人を比較する「マンガのちから」展を見る。去年の東京都現代美術館ですでに訪れたので、二度目だ。言うまでもなく、この二人は、映画などの影響を受けつつ、漫画の文法やジャンルを創造した。展示ではトキワ荘が3/4で再現されている。そのせいもあるかもしれないが、室内の畳の上の机が、座って使うタイプのものとはいえ、おそろしく低い。漫画家の身体スケールを正確に知りたいのだが、内部も3/4なのだろうか。ところで、宮城県美でサブカルチャー系の展示はめずらしいが、石ノ森が宮城県の出身だからなのかもしれない。ちなみに、手は1928年生まれで槇文彦、石ノ森は1938年生まれで渡辺豊和と同じ年だ。いかに漫画家が早熟なのかがよくわかる。

2014/06/27(金)(五十嵐太郎)

ボストン美術館 華麗なるジャポニスム展

会期:2014/06/28~2014/09/15

世田谷美術館[東京都]

モネの《ラ・ジャポネーズ》を中心に、ボストン美術館の所蔵品で構成された「ジャポニスム展」。1年の修復を経て初めて公開される《ラ・ジャポネーズ》は高さ230センチを超す大作で、色彩も鮮やかに蘇ってる(修復前は知らないけど)。でもね、団扇をベタベタ貼った壁の前で、赤い和服を着た金髪の白人女性が扇子を広げてポーズをとる姿は、考えてみればかなり悪趣味だ。だから現代にはぴったりマッチするのかもしれない。ほかにもゴッホ、アンソール、マティスらの絵画、ホイッスラー、メアリー・カサット、ロートレックらの版画、エミール・ガレのガラス器、そして日本の浮世絵や工芸品まで並べて、19世紀の欧米における日本美術の影響を探っている。すごいのは、これらがあっちこっちからかき集めたのでなく、ひとつの美術館から借りてきたものであることだ。西洋美術だけでなく、日本美術のコレクションでも知られるボストン美術館だからこそできたこと。ただ、ゴッホの模写した広重はあっても、ゴッホの模写自体はないんだよねえ。さて、今日は内覧会。《ラ・ジャポネーズ》の部屋に行ったら、作品の前で同じ着物姿の女の子がポーズをとってる。谷花音ちゃんという子役だそうだが、最近こういうの多いなあ。大きな展覧会の内覧会には必ずといっていいほどタレントが出てきて、目玉作品の前でフォトセッションをする。それはいいんだけど、10歳の女の子に「ジャポニスム展はいかがでした?」なんて聞いてどうする。「悪趣味だと思いました」と答えたらホメてやりたいけど。

2014/06/27(金)(村田真)

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開館40周年記念「1974 第1部 1974年二生マレテ」

会期:2014/06/28~2014/08/24

群馬県立近代美術館[群馬県]

高崎に向い、群馬県立近代美術館が開館40周年ということで、同年に生まれたアーティストによる「1974年ニ生マレテ」展を見る。時間を想像させる宮永愛子と春木麻衣子、建築との対話を行なう土屋貴哉や末永史尚の作品、幼少時の絵がすごい水野暁など、それぞれに楽しめたが、個人的にヒットは小林耕平だった。小林によるモノの関係性、形と機能、意味と記号のスタディを錯綜させながら展示するインスタレーションは、キャプションを追いかけて、部屋をあちこち移動しながら見ることが要請される。そして美術館の随所に設置された、小林と山形育弘が絶妙の間で繰り広げるシュールなトーク、《ゾ・ン・ビ・タ・ウ・ン》のシリーズ映像は抱腹絶倒だった。去年、あいちトリエンナーレで何度も岡崎を訪れたが、いつも業務で忙しく、結局、岡崎市美術博物館に行き損ね、そのとき《ゾ・ン・ビ・タ・ウ・ン》を見逃している。二階の群馬県立近代美術館のコレクション展示では、所々に企画展の作品が侵入しつつ、群馬青年美術展と群馬青年ビエンナーレ1976-2012の優秀作や大賞によって、40年の歴史を振り返る(毎回の審査委員も明記)。こうして通して見ると、作家の個性を超えて、やはり時代性が刻印されているのが興味深い。

2014/06/28(土)(五十嵐太郎)

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