artscapeレビュー
2017年03月15日号のレビュー/プレビュー
プレビュー:裏声で歌へ
会期:2017/04/08~2017/06/18
小山市立車屋美術館[栃木県]
今号のプレビューでも取り上げた、國府理「水中エンジン」再制作プロジェクトの一環であり、同プロジェクトの企画者である遠藤水城がキュレーションするグループ展。時代の「音」、「声」をテーマに、再制作版の國府理《水中エンジン》のほか、大和田俊、五月女哲平、本山ゆかりの3名の現代美術作家による新作、美術館の最寄りの中学校の合唱コンクールの映像、富士山や戦闘機などが描かれ、日清、日露、太平洋戦争など時代を映し出す「戦争柄の着物」が出品される。昨秋、「奈良・町家の芸術祭 はならぁと2016」において、地域の案山子巡りと同居する形で開催された展覧会「人の集い」に続く、遠藤による連続展覧会「日本シリーズ」の第二弾となっている。現代美術作品に加え、地元中学校の合唱コンクール、戦争柄の着物という資料を並置することで、それぞれの人の営みのなかからどのような視座が浮上するだろうか。
2017/02/27(月)(高嶋慈)
プレビュー:國府理 「水中エンジン」再始動!!!
会期:2017/04/01
2014年に急逝した國府理の《水中エンジン》(2012)は、國府自身が愛用していた軽トラックのエンジンを剥き出しにして巨大な水槽の中に沈め、稼働させるという作品である。動力源となる心臓部が、水槽を満たす水によって冷却されて制御されつつ、部品の劣化や浸水など頻発するトラブルの度に一時停止とメンテナンスを施されて稼働し続ける不安定で脆い姿は、原発に対する優れたメタファーである。何本ものチューブや電気コードを接続され、放熱が生む水流の揺らぎと無数の泡のなか、不気味な振動音を立てて蠢くエンジンは、培養液の中で管理される人造の臓器のようだ。エンジンから「走る」という本来の機能を奪うことで、機能不全に陥ったテクノロジー批判を可視化して行なうとともに、異物的な美をも提示する作品であると言える。
國府の創作上においても、「震災後のアート」という位相においても重要なこの作品は現在、インディペンデント・キュレーターの遠藤水城が企画する再制作プロジェクトにおいて、國府と関わりの深い技術者やエンジン専門のエンジニアらの協力を得ながら、再制作が進められている。解体され、オリジナルの部品が失われた《水中エンジン》を再制作し、再び動態の姿での展示が予定されている。國府自身が悩み手こずった作品を、残された記録写真や映像、展示に関わった関係者の記憶を頼りに再現する、非常に困難な作業だ。4月1日には、再制作の作業現場である京都造形芸術大学内のULTRA FACTORYにて、一般公開とトークが予定されている(15~17時、要予約)。
その後は、「裏声で歌へ」展への出品(小山市立車屋美術館、4月8日~6月18日)、オリジナルが発表された京都のアートスペース虹での展示「國府理 水中エンジン redux 」(7月4日~7月30日)と展開していく。一連の展示やトークイベントを通して、再制作という営為とオリジナルの関係性、不完全さや危険性を内包した作品の動態的なあり方が提起する「自律性」への問い、國府作品の再検証、原発への批評性など、複数のトピックを提起する機会となるだろう。まずは、《水中エンジン》が再び動き出す日を楽しみに待ちたい。
公式サイト:https://engineinthewater.tumblr.com/
2017/02/27(月)(高嶋慈)
渋谷達郎と大類真光による《西根の家》/辺見美津男《すべり台の家》
[山形県、福島県]
今年も審査委員長の古谷誠章とまわる、恒例の東北住宅大賞の現地審査を行なう。ついに第10回となった。最初は山形の豪雪地帯へ。渋谷達郎と大類真光による《西根の家》を訪問する。自分の山の木を使いつつ、高齢者のひとり暮らしにとって、除雪の負荷を減らすことを考え、道路側に家を建て替えた。寄棟屋根の下、大きな開口で景色を眺めながら暮らす、のびやかな住宅である。
郡山へ移動。辺見美津男による《すべり台の家》を見学する。急勾配の売れ残った宅地を活用し、室内外とも段々の構成をつくり、ハイライトは子どもが遊ぶすべり台である。また隣のグループホームの斜面を無料で借りながら、緑化する。サービス動線はコミュニティ再生長屋と同様、片側にまとめる。その後、米蔵をリノベーションした辺見事務所において、懇親会を行なう。
2017/02/28(火)(五十嵐太郎)
カタログ&ブックス|2017年3月
展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。
建築のポートレート
本書は、碩学の建築家・香山壽夫氏(東京大学名誉教授)による写真と文で、建築のエッセンスを鮮やかに捉える写文集です。
1964年の渡米以降、アメリカおよびヨーロッパの建築や都市をめぐって著者が撮影してきた無数の写真から、36点を厳選。撮影から数十年の時を経て、それぞれの写真にあらためて向きあい、文章が書き下ろされました。
建築家ならではの視点で撮られた写真、そして歴史的・文化的な広い視野のなか、親しみやすく確信に満ちた筆致で対象を描写した文章は、建築の専門家から一般の読者まで、多くの人を建築の奥深い魅力に引きこみ、新たな気づきをもたらすことでしょう。
現代アート10講
現代アートの入門書。ポップアート、抽象表現主義、ミニマリズム、コンセプチュアル・アートから、フェミニズム・アート、メディア・アート、写真、建築、工芸を包括し、ポスト3.11 の美術まで、なぜそれが出現したのかを真剣に考えることによって、私たちの社会が抱える問題の本質がえぐり出される。いつの時代にも「現代アート」は存在する。アートは常に私たちの価値観を攪乱し、制度に揺さぶりをかけ、視座の見直しをせまるのだ。
挑発する写真史
現実を撮っても、真実は写らない。写真は現実から何かを奪っている。都市を撮り続ける写真家と、写真の最先端を読み解く評論家。「撮ること=見ること」という視点から、写真の《正体》に対話で迫る。[中略]写真の「上手/下手」、写真を「撮る/撮らない」、写真家の「純粋さ/仕事」、写真家の「正解/誤解」。写真の《歴史》を象るものとは。講義は「芸術か、記録か」の範疇を超えた──。
絵画の歴史 洞窟壁画からiPadまで
一大センセーションを巻き起こした前著『秘密の知識』(日本語版)から約10年。思索を深め続ける現代美術界の巨匠デイヴィッド・ホックニーが、美術批評家マーティン・ゲイフォードとの対談を通して、絵画芸術の本質に迫る衝撃の一書。
遙かなる他者のためのデザイン──久保田晃弘の思索と実装
本書は、メディアアートの実践者として、また教育者として、最先端を走り抜けてきた久保田晃弘が、脱中心(=固着した人間中心主義から脱却すること、すなわち人間、ひいては社会が変わることを前提とした経験的想像力を超えたものづくり)を志向しながら、工学から芸術へ、「設計」から「デザイン」へと展開した、20年にわたる思索と実装を辿るデザイン論集です。
2017/03/14(artscape編集部)