artscapeレビュー
米田知子「暗なきところで逢えれば」
2013年09月15日号
会期:2013/07/20~2013/09/23
東京都写真美術館 2階展示室[東京都]
兵庫県出身で現在はロンドンとヘルシンキに在住している米田知子は、とても志の高い写真家だ。「歴史」「可視のものと不可視のもの」「写真というメディア」といった大きなテーマを、大胆に、だが決して気負うことなく着実に形にしていく。今回東京都写真美術館で展示された「暗なきところで逢えれば」は、国内では最初の本格的な回顧展である。代表作であり第二次世界体験の記憶が埋め込まれた場所を、そのディテールにこだわって撮影した「Scene」をはじめとして、「Japanese House」「見えるものと見えないもののあいだ」「Kimusa」「パラレル・ライフ:ゾルゲを中心とする国際諜報団密会場所」「サハリン島」「積雲」「氷晶」「暗なきところで逢えれば」(3面マルチスクリーンの映像作品)といった作品が、少し盛りだくさんな気がするくらいに並んでいた。
注目すべきは、2013年3月11日の東日本大震災を契機に撮影されたという「積雲」のシリーズだろう。「終戦記念日・靖国神社」「平和記念日・広島」「飯館村・福島」「新年一般参賀・東京」といった象徴性の強い日付と場所を選択し、いつものように細やかな配慮で写しとった写真群には、彼女の強い意志を感じ取ることができた。「日本が明治維新以降、列強諸国に比肩しようと民主化、近代化を進め、また世界を舞台に数々の戦争に賛同していった歴史と現在──ここ東京に滞在しながら、それが何を意味してきたかを、自分なりに考えている。[中略]われわれはどのような側面から客観視しても、欲に駆り立てられて存在しているのか。すべては不可視化されている」。問いかけは重いが、写真そのものは明晰で迷いがない。米田のような外国での生活が長い作家が、日本人としてのアイデンティテイを問い直すことは、それだけでも貴重な試みと言える。
なお同時期に、東京・清澄のShugo Artsでは、部屋とその内部をテーマにした「熱」「壁紙」などのシリーズを含む「Rooms」展(7月20日~9月7日)が開催された。
2013/08/04(日)(飯沢耕太郎)