2020年10月15日号
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artscapeレビュー

寺田真由美「光のモノローグ Vol.II」/「不在の部屋」

2010年05月15日号

光のモノローグ Vol. II
会期:2010/04/07~2010/04/26
日本橋高島屋 6階美術画廊X[東京都]
不在の部屋
会期:2010/04/21~2010/05/30
練馬区立美術館[東京都]

このところコンスタントに発表の機会が増えている寺田真由美。ニューヨーク在住の彼女の作品は、基本的に紙やガラスなどでミニチュアの「部屋」を作り、それをモノクロームのフィルムで撮影、プリントするという手法をとっている。なぜミニチュアかといえば、寺田が表現しようとしているのは個人的な記憶がまつわりついている特定の場所ではなく、誰もが既視感を感じることができるような「どこにもない部屋」だからだ。窓、扉、カーテン、テーブルなどがある日常的な情景を扱っているにもかかわらず、その背後から浮かび上がってくる物語は、見るもの一人ひとりの記憶や経験によって微妙に異なったニュアンスを帯びる。むしろ、そのような差異を引き出してくる装置として、寺田の「部屋」は注意深く作り上げられているといえるだろう。
だが、日本橋高島屋6階美術画廊Xと練馬区立美術館でほぼ同時期に開催されたふたつの個展(練馬区美術館は企画展「PLATFORM 2010」として画家の若林砂絵子の「平面の空間」展と併催)を見ると、寺田の「部屋」の雰囲気がだいぶ変わりつつあるように感じた。以前は「部屋」の住人の不在が醸し出す喪失感がベースになっていたのだが、近作では主にセントラル・パークで撮影されている「部屋」の外の風景が迫り出してきており、そこを満たしている光や空気も軽やかに弾んでいるように感じられるのだ。哀しみから歓びへの段階的な変化は、当然ながら寺田自身の心境の変化に対応しているはずだ。そのことを、4月24日に練馬美術館でおこなわれた寺田とのトーク・イベントでも確認することができた。作家としての意欲があふれ、自信が芽生えてきている様子がうかがえる。いまは1980~90年代に制作していた立体作品も、作品に取り込んでいきたいと考えているという。次作が楽しみになってきた。

2010/04/24(土)(飯沢耕太郎)

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