artscapeレビュー

井上章一『伊勢神宮 魅惑の日本建築』

2009年07月15日号

発行所:講談社

発行日:2009年5月14日

しばらく文化史的な仕事が続いていたが、久しぶりに井上章一による本格的な日本建築論が登場した。かつて桂離宮や法隆寺でも試みたように、本書でも文献にもとづく実証主義により、伊勢神宮をめぐる言説の変遷や分析を行ない、精神史を追跡していく。
興味深いのは、神秘的ではない、合理主義的な解釈がすでに江戸時代から始まっていたという指摘である。その近代精神は、同時に伊勢神宮からさかのぼる始源の小屋という新しい幻想をもたらすが、18世紀のヨーロッパの建築界でもウィトルウィウス批判を通じて同じ現象が起きていた。また井上は、1900年に伊東忠太が初めて骨格をつくったとされる神社建築史も、江戸時代に用意された知の枠組にのっていたとみなす。
一方で伊勢神宮を芸術として評価する近代的なまなざしは、明治を迎え、西洋との交流から獲得したという。他にも、伊勢神宮は日本特有か、アジアの影響があるのか、あるいは対照的な考えをもつ東大と京大の建築史家など、興味深いトピックが続く。ラストは、最近の考古学批判にも及ぶ。彼の個性でもある意地悪な語り口は気になるが、建築界における最高級の知性を感じる。

詳細:http://shop.kodansha.jp/bc2_bc/search_view.jsp?b=2154927

2009/06/30(火)(五十嵐太郎)

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