artscapeレビュー

松井沙都子 展「a ghost」

2009年07月15日号

会期:2009/06/09~2009/06/14

neutron[京都府]

例えばメディアによって得る流行や理想のイメージを求め、消費を繰り返すわれわれと、現実の身体の間にある歪み。松井は、そんな現実社会と自らの身体との関係をテーマに作品を制作している。今展で展示された平面作品には、腕や手指などの身体の一部分の輪郭と、衣服の縫い目や皺を表わす線がつながり、一体化するような不思議な形態が描かれていた。さらに、ランダムに画面に並ぶ水玉模様が、黒い線の一部を覆い隠し、いっそう図と地の境界を曖昧にしていく。画面を見つめていると、私自身がモチーフと背景の間を行ったり来たり往復する感覚に陥っていく。そのうち、「ゴースト」は作品のタイトルというよりも、鑑賞者(私)自身を指しているような気がしてきた。今展で松井が展開した手法は、これまでなかった新たな試みだったと言うが、彼女が考える空虚な器としての身体も、不安定に揺らぐその存在感も、見事に表現されていた。なによりそのスマートなセンスに惹かれる。次の発表も楽しみになった。

2009/06/14(日)(酒井千穂)

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