artscapeレビュー

カンポ・バエザの建築

2009年07月15日号

会期:2009/06/25~2009/08/29

ギャラリー・間[東京都]

アルベルト・カンポ・バエザはこれまで日本であまり知られて来なかったスペインの建築家である。本展覧会に実際に訪れるまで、そうはいっても自分はマドリッドの重鎮であるこの建築家に関して、かなり以前から認識してきたし、多少は知っているのではと思っていた。作品の数というよりも、そのミニマルな思想であるとか、光のとても美しい使い方であるとか、そういったことである。しかし、である。ギャラリー・間の会場に訪れて、やはり自分はまったくこの建築家のことを知らなかったのだと強く実感した。
一つには、その作品の数において。寡黙な建築家であることは確かなようで、オープニングでもまったくミニマルで、それでいて完璧なスピーチを披露した。だからこそ、これほど多産な建築家であったことにまず驚いた。第二展示室の奥に並べられた模型と作品パネルは、バエザの光に関する継続的なさまざまな試行を示している。その数が想像以上に多く、どのプロジェクトも見応えがある。これだけの作品を、展示上これだけコンパクトにミニマルにまとめていることがまた気になった。会場構成はマニュエル・ブランコ氏によるもの。ブランコ氏は、あえて多産な作品を強調しないという方針をとったのであろう。
もう一つには、その作品の特徴において。バエザの建築がミニマルという印象は、展覧会を見て大きく変わった。確かにミニマルであるといえる。必要ないものがおかれていたりデザインされていたりすることはない。しかし目的がミニマルであるわけではないのだ。ミニマルなデザインが生み出す効果は、まったくミニマルではない。見ていない作品がほとんどなので、模型や写真、図面を見ながらの想像でしか言えないが、バエザが目指している建築が目指す効果はミニマルの対極にある多様性だと思った。ミースの「レス・イズ・モア」を「モア・ウィズ・レス」と言い直して宣言する。レスを携えたモア。それこそが本当の多産性であると感じた。
展覧会についてもう少しだけ触れておきたい。第一展示室につるされた数多くのスケッチは、彼の生の手がダイレクトに示す思考を伝えている。これほど多くのことを語るスケッチも珍しい。一枚一枚のスケッチに、手と思考の痕跡が焼き付けられている。もう一点、この展覧会を裏から支えた人たちの一人である三好隆之氏に触れておかなければいけない。スペインに長く滞在した氏は、スペインと日本のまったく簡単ではないはずのコミュニケーションをつなぎ、展覧会全体をコーディネートしたという。そして今回の展覧会にあわせて出版された『アルベルト・カンポ・バエザ 光の建築』を訳したのも三好氏である。今回の展覧会はバエザをよく知る三好氏の尽力なしにはありえなかったであろう。本展覧会は、スペインの知られざる建築家を単に紹介するというだけでなく、多様性を喚起する「新たなミニマル」について深く考えさせる、重要な意味を持っている展覧会であるように感じられた。

2009/06/24(水)(松田達)

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