artscapeレビュー
日建設計《木材会館》
2009年07月15日号
[東京都]
竣工:2009年
日建設計による新木場の《木材会館》。担当の勝矢武之氏に案内していただいた。西側ファサードの大胆な構成にまずインパクトを受ける。最近のデザイン色の強い日建設計の建築のなかでも、ひときわアトリエ色が強い作品だろう。木材会館というだけあって、木材のさまざまな利用にこだわりを感じる。各階の壁や天井など内装のあらゆる部分で木材が使われている。この規模と用途では法規的に内装制限がかかり、これだけ大胆に使うことはこれまでできなかったのであるが、2000年の法改正で定められた避難安全検証法を用いることによって可能としている。また構造はSRC(鉄骨鉄筋コンクリート)造であるが、7階だけは木構造となっている。約25m飛ばされたコの字型構造体は、NC加工によって伝統的な継手である追掛大栓に、白カシの木栓がはめこまれて一体化されたものである。複雑な断面とその間の天窓によって光が天井に濃淡法を描く。
さて勝矢氏からはさまざまなことを説明していただいた。触れておくべき凝ったディテールは多くあるのだが、特に興味深かったのはこの建築が新しいオフィス建築の一種のプロトタイプとなっているところであった。プラン上特徴的なのは、西側の深いテラスである。ユニヴァーサルスペースとしてのオフィス空間に方向性が加えられることで、そのユニヴァーサル性が実はそうではなかったという事実を突きつける。しかし、それだけではないという。そもそも四面が全部違うのだと。確かにプランを見直せばそうだ。オフィスの矩形性を保ちつつも、それぞれの面にそれぞれの機能と空間が与えられ、自然と非対称性が生まれる。ところで、この話はレム・コールハース/OMAによる《ドバイ・ルネッサンス(Dubai Renaissance)》という回転する超高層のプロジェクトにも結びつく。そもそも日の光にあわせて回転すれば、建築は方向性から自由になるのだ。この木材会館はもちろん回転することはないのだが、建築の宿命ともいうべき方位の問題を、外部から内部にいたるにつれて消していき、それによって建築における方角性と非方角性を結びつけているのだ。
撮影:Nacasa & Partners Inc.
2009/06/13(土)(松田達)