artscapeレビュー
島尾伸三「中華幻紀──WANDERING IN CHINA」
2009年07月15日号
会期:2009/06/13~2009/06/21
PLACE M[東京都]
2008年に刊行された写真集『中華幻紀』(usimaoda 発売=オシリス)からピックアップした展示。もう20年以上も前の写真が多いので、フィルムが劣化し、プリントの全体に淡い緑色の薄膜のようなものがかかっている写真が多い(展示用のラムダプリントの制作は台湾で行なわれた)。だがそれが、逆に記憶のなかで色褪せていく光景を目で愛でているような、微妙な質感を醸し出している。ふらふらと漂うヒトやモノが、実体を失った心霊写真のようにも見える。中国の各都市の、どちらかといえば猥雑な情景が、「聖なる」と言いたくなるようなほのかな微光を放って見えてくるのは、島尾の「そのように見たい」という願望のあらわれだろうか。
プリントした作品の選別は、ギャラリーを主宰する瀬戸正人によるものという。悪くないが、島尾自身が選ぶと、もっと歪んだバイアスがかかった面白いものになったのではないだろうか。あわせて写真集に掲載されていた、たとえば「透過光/いつまでも飢餓感を抱いて景色を眺め、」「演出空間/実存さえも未発見気体(エーテル)のように手応えのなく、」といった、魔術的なレトリックを駆使したキャプションが割愛されているのが惜しまれる。
2009/06/17(水)(飯沢耕太郎)