2019年06月15日号
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artscapeレビュー

Spring Open 2010

2010年06月15日号

会期:2010/05/28~2010/06/02

BankART Studio NYK[神奈川県]

家人の土岐小百合(ときたま)が「ときたま1993─2010 コトバノチカラ」展(5月7日~30日)を開催していたので、5月にはかなりの頻度でBankART Studio NYKを訪れた。ちょうど2階、3階では4~5月期の「AIR」(アーティストインレジデンス)も催されており、25組のアーティストたちが2ケ月あまり滞在して作品制作をしていた。その成果を発表する「Spring Open 2010」も見ることができた。学生からかなり経験のあるアーティストまで幅があるので、面白い作品ばかりではない。だがこのような試みは、多くのアーティストや観客を巻き込むことで、さまざまな化学反応のような出会いを引き起こす可能性を秘めているのではないだろうか。
その中で、岡山県出身の写真家、藤井弘の作品「土地の方(ほう)へ 序章 横浜、鶴見、横須賀 06─10」が印象に残った。A5判くらいの小さな(だがかなり厚みのある)写真集の形で、ここ数年こだわり続けている「土地と人との関係」を写真とテキストによって構成している。基本的には横浜、鶴見、横須賀で出会ったいろいろな人たちに「いま住んでいる所をどう思いますか?」「故郷という言葉を聞いてどう思いますか?」という質問を投げかけ、その答えを丹念に記録していく作業だ。さらに「土地」の成り立ちを辿るために、古写真や幕末・明治期の図版なども挿入されている。写真のクオリティの高さにも注目すべきだが、むしろ日々の移動の軌跡と、そこから触発されて書かれたテキストとが多層的に重ね合わされることで、「土地」の姿が思いがけない角度から浮かび上がってくるのが興味深い。なかなか見応え、読み応えがあり、さらなる展開が期待できる仕事だと思う。なおBankART Studio NYKの「AIR」は6~7月期にも続けて開催される。

2010/05/30(日)(飯沢耕太郎)

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