artscapeレビュー
Wu Chin-Chin「A. face 2 face」
2010年06月15日号
会期:2010/05/14~2010/05/23
ZEN FOTO GALLERY[東京都]
面白そうな展覧会だとは思っていたが、見に行く時間がなかった。ところが、ZEN FOTO GALLERYのオーナーのマーク・ピアソンから突然メールが来て、クロージング・ドリンクをやるというので慌てて出かけてきた。どうやら台湾で印刷していた展覧会のための写真集の輸入に、「風俗を害する物品」ということで税関からストップがかかり、そのことへの緊急アピールという意味もあったようだ。
冗談のような名前のWu Chin-Chin(呉泌泌)は、上海生まれで北京在住の女性アーティスト。原子物理学者だった父の仕事の関係で、14歳でアメリカに渡り、パリで写真を学んだ。今回、日本で初公開された「Vis- -vis」シリーズは、50人あまりの女性モデルの性器をクローズアップでクリアーに写した作品。女性性器を主題にした作品は、クールベの「世界の起原」(1866年)以来、特に珍しいものではないが、本作は作者が女性であること、性器の存在を通じて自らを含めたアイデンティティを問い直すという意図が明確であることが重要だろう。なお、方向性は違うが、荒木経惟のモノクローム作品も同時に展示されていた。
むろん、性器のイメージにはエロティックな意味合いを呼び起こす要素がないわけではない。だが、このような生真面目な作品を杓子定規に「風俗を害する物品」とみなすこと自体、何とも時代遅れで硬直化したものに思える。むしろ、あまりにも生真面目過ぎて、人類学的な記録写真の羅列のように見えてしまうことの方が問題だと思う。もう少し笑いを呼び起こすような、いい意味で不真面目なアプローチもありえたのではないかとも思った。
2010/05/23(日)(飯沢耕太郎)