artscapeレビュー
沈昭良「STAGE」
2010年06月15日号
会期:2010/05/12~2010/05/25
銀座ニコンサロン[東京都]
沈昭良は1968年台湾・台南市生まれの写真家。日本に滞在して日本工学院専門学校で写真を学んだ時期があり、流暢な日本語を話す。この「STAGE」のシリーズは2006~2009年に4×5判の大判カメラで撮影されたものである。
はじめて目にする観客は、いったいこれは何だろうといぶかしむのではないだろうか。きらびやかな電飾が光輝く舞台が、夜空に大きくせり上がっている。これは「台湾綜芸団」(タイワニーズ・キャバレー)と呼ばれる見せ物の舞台として使われるもので、トラックの荷台にセットされ、油圧電動式のモーターによってパタパタと開くようになっているものだ。ステージトラックと呼ばれるこの舞台は台湾全土で600台ほどあり、夜ごといろいろな場所で歌謡ショーや民俗芸能大会などが開催されている。時には「女装の男性によるショー」なども見ることができるという。
沈の撮影の方法はきわめてオーソドックスなドキュメンタリーだが、逆にこのテーマにはそれしかやりようがないのではないだろうか。ドラゴンとディズニー・キャラが共存する華洋折衷というべき舞台のデザインそのものが、もう既に作り物の極みなので、演出的な撮影をする必要がないともいえる。ただ今回の展示では、舞台をあまり大きく扱わず、周囲の状況を取り入れた作品が多くなっていた。亜熱帯の、ねっとりと肌にまつわりついてくるような空気感が丸ごと伝わってくる。華やかだが、どこか悲哀感も漂う、台湾の都市文化のひとつの貌が浮かび上がってきているようにも感じた。
2010/05/21(金)(飯沢耕太郎)