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『建築雑誌2010年4月号 特集〈郊外〉でくくるな』

2010年06月15日号

発行所:日本建築学会

発行日:2010年4月20日

従来の郊外論を問い直そうとする意欲的な特集。中谷礼仁編集長による新体制の建築雑誌における特集号である。本号の担当委員は、東京電機大学の伊藤俊介氏と首都大学東京の饗庭伸氏。郊外は都市外縁部として、一律に無個性で均質な空間とまとめられる傾向があるが、実際にはもっと多様であり、そこに向かい合おうというのが本号の主旨である。饗庭氏によれば、世界を理解する三つの方法「帰納法」「演繹法」「類推法」のうち、帰納法では郊外が画一的だと結論づけられる傾向があることに対して、演繹法と一部類推法でアプローチしたのだという。特に興味深かったのは、大野秀敏氏(建築家)、福川裕一氏(都市計画)、藻谷浩介氏(地域エコノミスト)による鼎談であり、郊外には歴史性や多様性があり(あるいはこれから生まれる可能性があり)、それを読み込むべきという大野氏、藻谷氏に対し、都市計画を専門とする福川氏は、郊外はやはり均質だと真っ向から対立し、中心市街地の重要性を指摘する。つまり、まさに本特集号の是非が多角的に捉えられた対談となっている。その他、「理想」や「夢」から「虚構」と「幸福」へ、「故郷」から「地元」へという、用語の変化から「郊外」を考える重松清氏と若林幹夫氏の対談、車を長い廊下として郊外全体がつながっている空間の仕組みを「インドア郊外」と定義しつつ、郊外における場所性や差異を見出していこうとする岩佐明彦氏の論考も興味深かった。この特集であれば「湾岸」に関しては、どこかで触れても良いのではないかと思った。

2010/05/10(月)(松田達)

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