2021年12月01日号
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artscapeレビュー

パオロ・ニコローゾ『建築家ムッソリーニ』(桑木野幸司訳)

2010年06月15日号

発行所:白水社

発行日:2010年4月20日

ドイツのヒトラーが建築に関心をもっていたことはよく知られていよう。これについては20世紀最大の悪玉だけに、多く論じられ、映画でも紹介されたり、日本語で読める文献がすでに多く出ている。だが、イタリアのファシズムを先導したムッソリーニと建築の関係は、あまり研究がなされていなかった。当時のファシズム建築について、日本語で読めるものは、おそらく、すぐれたデザインで人気があるテラーニ関係の書籍や雑誌ぐらいだろう。だが、ムッソリーニにとって、テラーニは多数いる建築家の一人でしかない。むしろ権力者の信頼を得て、大型のプロジェクトをコーディネイトしたピアチェンティーニ、EUR42で意見が対立したパガーノのほか、ブラジーニ、ポンティ、モレッティの方が重要だろう。しかし、彼らに関する日本語の情報は少ない。そうした意味において、ムッソリーニと建築をめぐる包括的な研究書が、今回邦訳で読めるようになったことは大変に喜ばしい。彼があれこれ指示を出した都市改造などに関する記述は、細かい地名が多く、手元にローマの地図がないと、意図がわかりにくいだろう。だが、それだけムッソリーニは、具体的に景観を考えていたのだ。彼とヒトラーは互いの都市を訪問し、それぞれのプロジェクトについて意見交換をしていたが、本書ではイタリアとドイツにおける建築政策の比較も深いレベルで行う。ともあれ、ファシズムが建築家にとって魅力的な時代だったことがよくわかる。

2010/05/31(月)(五十嵐太郎)

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