2019年07月15日号
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artscapeレビュー

スーザン・ピーチ展「playing your f(l)avour」

2011年04月01日号

会期:2011/01/19~2011/02/26

studio J[大阪府]

スーザン・ピーチ(Susan Pietzsch, 1969-)は旧東ドイツに生まれ、ヴィスマール大学ハイリゲンダム応用美術専門学校宝飾学科を修了、近年はコンセプチュアルなジュエリー作品やオブジェ、インスタレーションを手がける。studio Jでの3度目の個展となる今回は、砂糖で出来たカラフルなビーズのブローチや、数珠がぺしゃんこになったような形のチョコレートバーのブローチを発表した。食べられ、また朽ちていくものをアクセサリーの素材とすることは最近のピーチの関心事のひとつである。彼女はそれを通じて、富や権力、虚栄の象徴ゆえに高価な素材の持つ永久性をジュエリーに求めるわれわれの価値観を打ち破ろうとする。
もっとも、ピーチのアクセサリーはなにもかもが食物のような非永久的な素材でできているわけではない。砂糖のブローチのクリップは18金製であり、チョコレートバーのブローチは、漆によるヴァージョンもある。また今回は、チョコレートに似せた磁器製のブローチも出品された。つまり、ピーチの作品は、ジュエリーに対する素材上の転覆に留まらず、だまし絵の効果のような視覚上の転覆をも射程に入れている。砂糖菓子のブローチの高価なクリップは服に付ければ見えなくなり、チョコレートと漆のブローチを両方、胸に付けてネックレスのようにすると、なんの素材のアクセサリーなのかわからなくなる。
転覆の試みはさらに、視覚以外の感覚領域にも及ぶ。食物によるアクセサリーは身に付ければおそらく匂いを発し、雨に濡れれば溶け、お腹がすけば食べられる。つまるところ、ピーチがジュエリーに与えようとする新たな価値感とは、理性により形作られた伝統的概念の単なる否定というよりも、ジュエリーがあたかも身体の一部としてわれわれの五感を通して認識され、かつ身体のように、儚くも再生可能なものとして存在し得ることなのではないか。実際、展覧会タイトルにある(l)の字が、まさに彼女のジュエリーが「(理性的、視覚的な)好み(favour)」と「(味覚的、嗅覚的な)味(flavour)」のどちらでも楽しめることを示唆するように思えるのだ。[橋本啓子]

2011/02/26(土)(SYNK)

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