2019年09月15日号
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artscapeレビュー

石川光陽 写真展

2011年04月01日号

会期:2011/12/07~2011/03/21

旧新橋停車場鉄道歴史展示室[東京都]

警視庁カメラマン・石川光陽の写真展。東京大空襲の惨状を撮影したことで知られているが、今回展示されたのは戦前の東京の街並みを写し出した写真、およそ80点あまり。銀座、浅草、上野、霞ヶ関、高円寺など、今では「昭和モダン」と呼ばれる街並みが、もちろん実際に見たことがあるわけではないにせよ、やたら魅力的に見えて仕方がない。小型のバスやおかっぱ頭の子どもたち、洋装と和装が混在した人びとの装い、そして街の看板に踊る文字の数々。都市と人間を同時にとらえることを念頭に置いて撮影されているのだろうか、街の表情と人のそれが的確に伝わってくる。昭和初期の都市風景が輝いて見えるのは、過ぎ去りし日を貴ぶ憧憬というより、むしろそのように見させてしまうほど現在の都市生活が限界を迎えているからだろう。例えば東京湾の埋立地は東京都から排出されるゴミによって造成されてきたが、もはや東京湾にその容量は残されていないという。しかも東京の電力を支えてきた原子力発電所の甚大な被害に苛まれている昨今、昭和初期の都市構造とライフスタイルは、いまやたんなるノスタルジーの対象にとどまらず、現実的に目指すべきモデルになりつつあるのではないか。石川光陽の写真は、原点回帰のための具体的な視覚的イメージとして活用できると思う。

2011/03/11(金)(福住廉)

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