2019年07月15日号
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artscapeレビュー

ハウスメイド

2011年04月01日号

会期:2011/03/05~2011/03/13

大阪アジアン映画祭・ABCホール[大阪府]

いわゆる「名作」というものをリメイクする行為はつねにかなりのリスクをともなう。原作に寄り過ぎてしまうとやっぱり原作は超えられないといわれるし、原作を徹底的に解体してしまうと原作の面影の無さに怒りをぶつけられる。綱渡りのような危険で厄介な作業だ。2010年5月、韓国で公開された、イム・サンス監督の映画『ハウスメイド(原題:下女)』も同じ立場だったと思う。韓国映画史上もっとも優れた映画監督の一人とされる、キム・ギヨンの1960年作『下女』のリメイク作であるからだ。人間のエゴを、卓越した心理描写と独特な表現方法で描き続けた、映画監督キム・ギヨンの原点にして頂点に立つ名作と言われる作品だ。『下女』のリメイク版というレッテルは、それだけで乗り越えるべき壁になり、逆に宣伝にもなるはず。予想通りと言ったら失礼だが『ハウスメイド』に関する批評家たちの評価はそれほど芳しくなかったが、興行成績は良好だったようだ。ある意味勝負師としてのイム・サンス監督の一面が垣間見られる部分。この作品は昨年韓国で発売されたDVDですでに観たのだが、「大阪アジアン映画祭2011」のオープニング作品として招待されたことで、今回やっとスクリーンで観ることができた。ちなみに、今年で6回目を迎えた「大阪アジアン映画祭」は日本でもっとも歴史の浅い国際映画祭のひとつではあるが、日本未公開の、良質なアジア映画を紹介しているイベントだ。『ハウスメイド』は今年の夏公開予定だ(配給:ギャガ)。
主人公のウニは上流階級の家でメイドとして働くことに。そこには優しい主人と双子を妊娠中の妻、6歳になる娘、そして昔からそこで働くベテランメイドが暮らしている。ある日ウニは、主人に求められるまま関係を持ち、妊娠してしまう。未公開作品なので、あらすじの紹介はここまでにして、宣伝用小冊子にある文句を引用することにしよう。「彼女(ウニ)の【無垢】が凶器になる時、豪華邸宅は震撼の館に変わる」とある。これは『ハウスメイド』には当てはまらない表現だと思う。そこにはキム・ギヨン監督の下女が見せた、鳥肌が立つほどの狂気も破壊力も、緊張感さえもないからだ。またウニは無垢ではない。汚れのない、保護されるべき存在ではなく、ただ無知で無力な小市民に過ぎない。それは演出力の問題というより、イム・サンス監督(脚本も担当)が50年前の韓国と現在の韓国の違いをいかに認識しているかの問題である。だからこの映画を楽しむ方法は2つ。日本の観客には難しいと思うが、『下女』と『ハウスメイド』を比較してそこから見えてくる韓国社会の変化(資本主義や家族主義の澎湃[ほうはい])に驚くか、または原作の存在など忘れて『ハウスメイド』として楽しむかだ。[金相美]

2011/03/09(水)(SYNK)

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