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artscapeレビュー

包む──日本の伝統パッケージ展

2011年04月01日号

会期:2011/02/10~2011/05/22

目黒区美術館[東京都]

アート・ディレクターの岡秀行氏(1905-1995)は日本各地を旅するなかで、土地々々の素朴なパッケージに心を惹かれ蒐集をはじめたという。その蒐集品は1960年代から80年代にかけての国内外での展覧会の開催、書籍の刊行を通じて、世界に日本の伝統パッケージの魅力を広めた。今回の展覧会は、1988年に目黒区美術館で開催された展覧会を契機に岡氏より譲り受けた「日本の伝統パッケージ」の数々を23年ぶりに展観するものである。
展示の構成は大きくふたつに分けられる。ひとつは伝統工芸的な商品パッケージ。これはさらに木、竹、笹、土、藁、紙と、おもに素材別に分けられている。多くはお土産品としてつくられたもので、実用というよりは、買う人、貰う人を楽しませる工夫に満ちている。もうひとつは人々の生活に根差した実際的なもの。たとえば藁という素材のみで卵、魚、米などを包む工夫がすばらしい。また、結納目録、千歳飴など、ハレの行事に見られる包みの持つ華やかな演出効果にも感動する。会場では一部のパッケージのみではあるが、外観ばかりではなく内容をも紹介する3D映像が上映されている。これはとてもよかった。美術館という場である以上しかたがないのだが、展示において私たちが見ることができるのは「包まれたもの」だけである。何が包まれているのかも、包むという行為も、受け手が行なうであろう包みを解くという楽しみも知ることができない。3D映像は、長期の保管が困難な自然素材のパッケージをアーカイブするうえでも、ものを媒介にした人びとの行動を記録するうえでも、とても優れた手段ではないかと思う。
展示されている「伝統パッケージ」は岡氏が自ら集めたものであり、その時点ではまだ各地で実際につくられ、使われていたものである。さらに、目黒区美術館のコレクションは1988年の展覧会の際に新たに集められたものがほとんどであり、必ずしも歴史的な意味での記録ではない。今回の展覧会のために求められたパッケージもあるという。となれば、ここで「伝統」とは何を意味しているのだろうか。
「たしかに最初は『かたち』そのものが魅力であった。どの一つを取っても、それらはあまりにも美しかったし、その見事さに私は当然のことながら酔ってしまった。そのうちに何故か私は『かたち』以上の何かを見始めた。『かたち』の奥に呼吸している人間、しぶとく今日に生き続けている人間そのものへと、私の関心は変わって行った」と岡氏は書く(岡秀行「包装の原点」[『包む──日本の伝統パッケージ』展覧会図録、11頁])。岡氏がこれらのパッケージに見た「伝統」とは、ものそれ自体のことではなく、「包む」という行為に現われた日本人の美意識であり、素材と対峙する心の継承のことなのである。それゆえ、デザイナーとしての岡氏はプラスチックなどの素材を否定するわけでも、過去への回帰を提唱しているわけでもない。氏のコレクションは、伝統パッケージから「日本人の価値観や自然観を探り、あるいは日本人固有の美の倫理を追究する試み」(同、15頁)であり、そこに見られる精神や価値観はけっして過去に留まるものではなく、これからのものづくりに生かされるべきひとつの指針なのである。[新川徳彦]

2011/03/03(木)(SYNK)

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