artscapeレビュー

2014年02月15日号のレビュー/プレビュー

柿沼康二 書の道「ぱーっ」

会期:2013/11/23~2014/03/02

金沢21世紀美術館[石川県]

昨晩中に金沢での用事を済ませ、今日は余裕で美術館へ。最近、同館では工芸とか書といったマージナルなジャンルの展覧会をやるようになった。現代美術もある意味マージナルな位置に立ってるので重なる部分もあるのだろう。ただし工芸や書の場合、否応なく伝統的な形式を引きずっているため、いくら現代美術に接近しても完全に融合できるわけではない。むしろどれだけ摩擦を生じさせるか、議論を深められるかが重要だと思う。柿沼の書は、幅5メートルを超す大作やアルファベット表記など、明らかに「書」の常識を超えている。大作では作者は紙の上に立ち、墨をたっぷり含ませた巨大な筆を力まかせに振り回すように書いていく。そのため墨のしぶきが飛び散り、ところどころ紙が破れ、ときに手足の跡が残り、しかもなにが書いてあるのか判読しがたい。これは書というよりアクション・ペインティングに近いのではないか。でも紙を水平に寝かせて筆に黒い墨(朱もある)を含ませて文字を書く、という点では書の範疇を超えてない。書としても絵画としても斬新さを評価できるかもしれないが、逆に書としても絵画としても半端さを指摘できる。このどっちつかずのコウモリ感。もともと漢字は象形文字から来ているので,アルファベットのカリグラフィより絵画形式になじみやすいのは事実だろう。なつかしい言葉でいえば、シニフィアンとシニフィエが一致している。だいたい「山」と書いて《山》と題するように、書かれた文字がそのままタイトルになっているから過不足がない。困るのは英語表記で、展覧会名にもなった「ぱーっ」は「PA-」、「一」は「ONE」に訳されているため齟齬が生じている。うーん、書というのも奥が深い。

2014/01/30(木)(村田真)

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島袋道浩:能登

会期:2013/04/27~2014/03/02

金沢21世紀美術館[石川県]

島袋が能登を旅して作品をつくりるという1年間の長期プロジェクト。能登へ行くきっかけになったくちこ(ナマコの生殖巣を集めて干したもの)づくりを追ったビデオ、くちこづくりのシーズンオフにやってる鉄づくりのプロセスを実物で見せるインスタレーション、能登で拾ってきたさまざまな形態とサイズのタコツボ、音楽家の小杉武久を誘いその場にあるもので即興演奏したときの映像、風よけのために竹でつくった間垣の再現、昔なつかしいフィルムカメラのスーパー8で撮った海で遊ぶ子どもたちの映像、などを見せている。島袋は「ナマコを最初に食べた人、ナマコが食べられると思った人の想像力と勇気にはずっと前から尊敬の気持ちを持っていた……」と述べているが、これは自分のことを語っているのかもしれない。20年近く前に彼がデビューしたとき、これのどこがアートなんだろうと考え込んでしまった覚えがあるが、彼は「ナマコ(またはタコ)を最初にアートにした人、ナマコがアートになると思った人」なのだ。そしてそのとおり、彼はアーティストとしてベルリンから金沢に招かれ、タコやナマコをアートにしている。その「想像力と勇気」は尊敬に値する。

2014/01/30(木)(村田真)

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明和電機 ナンセンスマシーンズ展

会期:2014/01/21~2014/02/09

金沢21世紀美術館[石川県]

明和電機もデビューして20年という。そういえばすっかり忘れていたけれど、展覧会を見て思い出した。1993年に彼らが大賞を受賞してデビューしたソニーのアートアーティストオーディションで、数百点の応募作品のなかから候補作を荒選びするのをぼくも手伝ったんだ。たしか明和電機の応募作は、水槽の上に吊るされた針が時報に合わせて落下し、運が悪ければ下にいる金魚に刺さるという《ウケ-テル》。これはナンセンスながらも生死をめぐるドラマが秘められていて衝撃的だった。よく金魚愛護団体(そんなのあるか?)から抗議が来なかったもんだ。作品だけでなく明和電機というネーミングも、その制服もセンスがいいというか趣味が悪いというか、とにかくダントツだったのでよく覚えている。その後あれよあれよという間に作品を量産し、ライブを展開し、吉本興業入りして、視界から遠ざかっていった。こうして改めて作品をながめてみると、ぼくが知ってるのは初期の「魚器シリーズ」と「ツクバシリーズ」の一部だけ、つまり90年代なかばごろまでで、以後大半の作品は未知のものだった。まあ最初の瞬発力だけで十分だと思うけど。

2014/01/30(木)(村田真)

松尾竜平個展「TOBIRA」

会期:2014/01/18~2014/02/08

MATSUO MEGUMI +VOICE GALLERY pfs/w[京都府]

京都では初個展という松尾竜平。私は今展で初めて知る作家だった。アーティストのプロフィールなど詳細も知らずに見に行ったのだが、描かれた自然の風景にもどことなく不可思議な雰囲気と違和感を覚える作品や人々の顔を描いた一連の作品は、謎めいた物語の魅力にも溢れていて印象に残る。ドアの手前にリンゴが置かれた作品《りんご》をはじめ、《赤い家》《扉》《SEEING》など、タイトルと作品のやや暗い趣きがともに記憶に焼きつき、会場を出てからも気持ちが引き摺られた。作品もさることながら作家自身に興味が掻き立てられた個展。

2014/01/30(木)(酒井千穂)

森山大道「終わらない旅 北/南」

会期:2014/01/23~2014/03/23

沖縄県立博物館・美術館 企画ギャラリー1・2[沖縄県]

沖縄県那覇市の沖縄県立博物館・美術館で開催された森山大道展は、まず総出品点数922点という数に度肝を抜かれた。もっとも、そのうち400点あまりは2002年刊行の写真集『新宿』(月曜社)の印刷原稿のプリントで、それらは4期に分けて展示された。それでも600点以上の作品が常時展示されるというのは、これまで開催された森山の写真展では最大規模だ。2012~13年のテート・モダン(イギリス・ロンドン)でもウィリアム・クラインとの二人展に見るように、彼の写真の影響力は海外にも広く浸透しつつある。その自信が隅々にまでみなぎった展示と言えるだろう。
展示は「起点」「犬の記憶」「破壊と創造」「光を求めて」「終わらない旅」の5部構成。名作がずらりと並ぶ前半部分も圧巻だが、今回の見所は最終章の「終わりのない旅」である。このパートは、展覧会のタイトルが示すように「北/南」、すなわち北海道と沖縄の写真で構成されている。北海道は写真表現の極限まで突き進んだ『写真よさようなら』(写真評論社、1972)刊行後の虚脱感を埋め合わせようと道内を彷徨して撮影した写真群、沖縄は1974年に「ワークショップ写真学校」のイベントのため東松照明、荒木経惟らと初めて沖縄を訪れた時に撮影した路上スナップが展示されている。それに加えて、どちらも最近撮影されたデジタル・カラー作品も並置してあった。つまり、「北/南」「モのクローム/カラー」という対立軸を設定することで、森山の作品世界を立体的に浮かび上がらせようというもくろみで、それはとてもうまくいっているのではないだろうか。森山大道の現在を見通すには、必見の展覧会と言えそうだ。

2014/01/30(木)(飯沢耕太郎)

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2014年02月15日号の
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