artscapeレビュー
2015年12月15日号のレビュー/プレビュー
3.11以後の建築
会期:2015/11/07~2016/01/31
水戸芸術館現代美術センター[茨城県]
水戸芸術館の「3.11以後の建築」展へ。「戦後日本住宅伝説」展は、最初から四館の巡回を予定しながら、企画を進めていたが、これは金沢の展覧会がスタートした後、水戸への巡回が決定するという異例の経緯だった。したがって、面積の関係から、内容を少しコンパクトにすべく、金沢に固有の内容を削るなど、わかりやすく再構成した。また磯崎新事務所で水戸芸の設計を担当した青木淳の展示は、十日町の拠点を空間として再現し、パワーアップしている。
2015/11/08(日)(五十嵐太郎)
東北大学工学部建築・社会環境学科設計課題「水戸芸術館から拡張する建築」のための現地見学会
会期:2015/11/08
水戸芸術館現代美術センター[茨城県]
今年は3年の設計課題を水戸芸術館の南側の街区に、個人美術館と商業施設をつくりながら、国道までつなぐテーマを設定し、学生と共に現地見学を行なう。もっとも、このエリアでホールを建てる計画が本当にあるらしい。学芸員の井関悠にバックヤードを案内してもらう。水戸芸術館が、いわゆるコレクションを収蔵する美術館ではなく、アートセンターであること、そして美術/演劇/音楽の三部門の同居が特徴だと改めて気づく。
2015/11/08(日)(五十嵐太郎)
ψ history(プサイ・ヒストリー)
会期:2015/11/06~2015/11/15
Chapter 2[神奈川県]
松澤宥の作品資料やパフォーマンスなどの記録写真の展示。現代詩手帖とか芸術倶楽部とか70年代の懐かしい雑誌もあるし、瀧口修造のデカルコマニーも展示されている。いま世界的に日本の50-60年代の前衛芸術が再評価されているが、松澤の作品も高騰しているらしい。見る人が見ればお宝満載の展覧会。
2015/11/09(月)(村田真)
笹岡啓子「SHORELINE」
会期:2015/10/29~2015/11/27
笹岡啓子は東日本大震災以降、2012~13年にかけて三陸沿岸と阿武隈山地の村々を撮影し、「Difference3.11」と題する展覧会を開催し、B5判の小冊子『Remembrance』(全41巻 KULA)を刊行し続けてきた。それらが完結したのを受けて、2015年以降に「SHORELINE」のシリーズを発表しはじめている。本展は2015年6月に開催された同名の展覧会(「秩父湾」を展示)に続くもので、小冊子『SHORELINE』(KULA)もすでに18冊刊行されている。
今回の展示は「香取海」と題され、茨城県の霞ヶ浦の周辺で撮影されたものだ。このあたりは1000年前には関東平野のかなり奥まで海が入り込んでおり、現在とは「海岸線」もかなり違っていた。前回展示した「秩父湾」もそうなのだが、笹岡が試みようとしているのは数千年、数万年の単位で変動していく地勢の変化を、写真撮影を通じて探りあて、「時制を超えた地続きの海」の在処を浮かび上がらせていくことにある。一方、『Remembrance』の完結後も撮り続けられている三陸、福島の被災地域の「海外線」もシリーズの中には組み込まれ、今回、隣室のKULA PHOTO GALLERYで展示されていた「若狭湾」のように、原子力発電所のある風景も視野に入ってきている。つまり、現在と過去の時制が、「海岸線」でせめぎ合うような状況を見つめ直すことが、笹岡のもくろみなのであり、このシリーズはより多様な広がりを持って展開していくのではないだろうか。
とはいえ、笹岡の作品によく登場して来る釣り人たちの姿を画面に取り入れた今回の「香取海」は、主に雨の日に撮影されていることもあって、縹渺とした寄る辺のなさがさらに強まり、魅力的なたたずまいの作品に仕上がっている。つげ義春の一連の「旅もの」の漫画(「枯れ野の宿」1974年など)の描写を思い出してしまった。
2015/11/10(火)(飯沢耕太郎)
薄井一議「昭和92年」
会期:2015/10/31~2015/11/21
ZEN FOTO GALLERY[東京都]
薄井一議は、2011年に同じZEN FOTO GALLERYで「昭和88年」と題する個展を開催している。かつての色街を中心に、異形の人物が跳梁する前作の雰囲気は今回もそのまま踏襲されており、タイトルも含めて、明らかに続編を意識した作りといえるだろう。だが、「日本最後の見世物小屋、津軽の人形婚、イタコ文化、佐賀の秘宝館、闘犬、元任侠の三味線弾き」(薄井の私信より)など、被写体の幅が広がっているとともに、それらが俗っぽい見かけであるにもかかわらず「侵すことのできない聖域=アジール」に属する事象であることが、しっかりと意識されるようになっている。前作とあわせて見ることで、薄井の作品世界の深まりがはっきりと見えてくるのではないだろうか。
薄井が写真を撮り続ける時に意識していたのは「東京オリンピック」だったという。2020年のオリンピックをめざして、街並は変貌し、至る所で「浄化作戦」が進行している。かつてのいかがわしさを含み込んだ、多面的、多層的な「グレーな文化、矛盾の文化」も窒息状態に追い込まれつつある。薄井はそんな中で、まだ「人間らしく愛らしい文化」が息づいている「アジール」を撮り続けることに、ある種の切迫した感情を抱いているのではないだろうか。そのことが、脱色したようなピンクや水色を強調した写真群から、じわじわと滲み出すように伝わってきた。この「昭和」のシリーズは「最後の昭和の断片が一掃されるであろう東京オリンピックの年で完結」する予定という。それまでに、どれだけの厚みが加わっていくのかが楽しみだ。
なおZEN FOTO GALLERYから写真集『Showa92 昭和92年』から同名のハードカバー写真集が刊行されている。前作に引き続いて町口覚のデザイン。写真のレイアウトがリズミカルで、目に快く飛び込んでくる。
2015/11/11(水)(飯沢耕太郎)