2021年10月15日号
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artscapeレビュー

2015年12月15日号のレビュー/プレビュー

UW-JSPS Joint Symposium:Socially Engaged Art in Japan NARRATIVE AND PANELS 日本における社会に関わるアート:現代美術と政策への問い

会期:2015/11/12~2015/11/14

ワシントン大学[アメリカ合衆国、ワシントン]

シアトルのワシントン大学でのシンポジウム「Socially Engaged Art」は、3日間朝から夜まで濃密なプログラムだった。そもそもタイトルの概念とは? 日本におけるその展開、具体的な実践例の紹介、ポスト3.11などが議論された。途中、ロサンゼルス在住の田中功起のトークや、シアトルに滞在している加藤翼の作品紹介も交える。
筆者は3.11を扱う最後のセクションで、金沢21世紀美術館から水戸芸術館に巡回した「3.11以後の建築」展と、ザハの新国立競技場問題を軸に「リレーショナル・アーキテクチャー」について発表する。Marilyn Ivyから従来の美学的な建築と新しい社会的な建築は対立するものなのかと聞かれ、両者は重層しうると回答した。

2015/11/14(土)(五十嵐太郎)

学園前アートウィーク2015

会期:2015/11/07~2015/11/15

大和文華館文華ホール、帝塚山大学18号館、学園前ホール ラウンジ(奈良市西部会館3階)、淺沼記念館、中村家住宅、GALLERY GM-1[奈良県]

関西屈指の高級住宅街と言われる奈良市内の学園前エリアで、初開催となる地域型アートイベント。学園前は、戦後、郊外型ベッドタウンとして宅地開発され、地域名の由来ともなった帝塚山大学や東洋美術のコレクションで知られる大和文華館のある文教地区である。会場ボランティアは地元の年配の人が多く、地域が受け入れようとしている姿勢を感じた。現代アートをツーリズムと結び付け、「地域活性化」を目指す地域型アートイベントはすでに各地で乱立・飽和状態だが、高齢化・過疎化は山間・農村部だけの問題ではなく、都市沿線部の住宅地でも(潜在的に)進行している。その意味では、今後、同様の郊外ニュータウンでのアートイベントの先駆例となっていくかもしれない。
この種のアートイベントでは、「地域の魅力の再発見」がまずもって至上命令とされるが、本イベントでは、1909年に建設された奈良ホテルのラウンジの一部を移築した大和文華館文華ホール、企業家の邸宅で茶室や庭もある淺沼記念館といったゴージャスな空間と、木造の空き家や大学校舎を組み合わせ、コンパクトながらこの地域の性質がよく分かるような会場がセレクトされていた。大和文華館文華ホールでは、荒々しく飛び散る墨の飛沫に仮託したエネルギー/繊細な筆致の細密描写、俯瞰/微視的な描き込みを共存させながら東北の風景を描く三瀬夏之介の巨大な屏風作品が存在感を放っていた。また、淺沼記念館では、ダイニングのテーブルクロスの刺繍と同じ模様を、ワイングラスの内部に施すことで、グラスの水面に模様が映りこんでいるかのような繊細なインスタレーションを展開した森末由美子の作品が光っていた。
また、地域性や展示空間への言及とは無関係に強い印象を残したのが、稲垣智子の映像インスタレーション作品《GHOST》である。4面に投影された映像では、それぞれ、黒いジャケットを着た男性の手と情熱的に抱き合う/激しくもみ合う/泣いているのを慰められる/優しく抱き合う女性の姿が映し出される。屏風状のスクリーンは、片側が鏡面になっているため、恋人と抱擁する女性たちの半身は、左右対称に分裂し、あるいは二頭の怪物に変化したかのような不気味な様相を呈してくる。そうした不気味さや不穏感は、男性の頭部が見えないことでより増幅され、戦慄的なラストへと収束する。愛撫してくれる、強引に迫ってくる、慰めてくれる男性たちは、実は女性の一人芝居であり、自らの片腕をジャケットの袖に通して、男性の「手」を演じていたのだ。しかし女性たちは、ハンガーに吊るされた空っぽのジャケットに気づくことなく、包まれるように一体化してしまう。稲垣の作品は常に、多幸感と暴力性という二面性でもって見る者を突き刺すが、《GHOST》では、「ロマンティックな恋愛」「抱きしめたり慰めてくれる男性」という幻影を自らつくり上げ、その虚構の回路の中に取り込まれていく恐怖が、目覚めなければ幸福な夢として描き出されている。それは、女性を消費主体として生産される少女漫画や恋愛ドラマにおいては、男性は「不在」であり、自己の願望的な分身の投影にすぎないということ、そのナルシスティックな幻想の回路を、虚実の狭間を曖昧に融解させる鏡という装置を用いて提示した、巧みなインスタレーションだった。


稲垣智子《GHOST》 撮影:増田好郎

2015/11/15(日)(高嶋慈)

海街diary

行き帰りの飛行機では、7本の映画を見る。ベストは「海街diary」だった。こんな四姉妹はいないだろうと突っ込みたくなるが、それを上回る実在感が、細部の描写によって丁寧につくり込まれている。欠けた父の記憶を共有しつつ、味や家屋や作法を継承していく彼女たち。広瀬すずも、この瞬間にしかできない役と演技である。

2015/11/15(日)(五十嵐太郎)

空気展 -what is “kuuki” in Architecture? 若手建築家5名による展覧会

会期:2015/11/17~2015/11/28

東北大学 人間・環境系研究棟1Fギャラリー[宮城県]

東北大学の人間環境棟で、若手建築家5人の「空気」展がスタートした。2014年のU-35に参加していた伊藤友紀、植村遥、魚谷剛紀、長谷川欣則、細海拓也が、小さな模型群を並べたプリズミックギャラリーとは違う展示を行ない、巡回展というよりも、新しい展示として再構成された。当初は小さな模型だけ送ってもらい、既存の台に置いてもらうつもりだったが、実際は展示のための什器からつくり込み、想像以上に力の入った内容となった。1階のトンチクギャラリーも、ちゃんとした展示を行なうと、これまでになくよい空間に見える。初日のトークでは、翻訳不能な「空気」の概念(それがゆえに、かつての「間」展のように展開しうるのでは?)、ミックスした展示形式などを討議する。

2015/11/17(火)(五十嵐太郎)

下平竜矢「星霜連関」

会期:2015/11/10~2015/11/23

新宿ニコンサロン[東京都]

下平竜矢は、10年前に移り住んだ青森県八戸市の古い神社で獅子舞を見た時に、「原始の時間が現出した」ように感じたという。それ以来、「かの始めの時」を求めて各地の祭礼や民俗行事を中心に撮影してきた。それは芳賀日出男、内藤正敏、須田一政など、これまで多くの写真家が取り上げてきたテーマだし、近年でも石川直樹や小林紀晴の仕事が思い浮かぶ。だが、それらの写真家たちとの差異性を意識し過ぎることなく、自分のやり方を押し通していったことで、独自の質感を備えた写真群が形をとりつつある。今回、新宿ニコンサロンで開催された個展、およびZEN FOTO GALLERYから刊行された同名の写真集を見て、下平の作品の方向性が着実に固まってきたことを確認できた。
出品作33点には、祭礼や行事の様子がしっかりと記録されているものもある。だがむしろ目につくのは、炎、水、空気のどよめき、群集のうごめきなどに還元された、何が写っているのかよくわからない写真だ。つまり下平は、オーソドックスな「民俗写真」の作法に寄りかかることなく、「原始の時間」をむしろ直接的につかみ取ろうとしているのではないだろうか。そのことは、写真展や写真集に、日付、場所、行事についてのデータ、キャプションが一切省かれていることからも裏づけることができる。このやり方が諸刃の剣であることをよく承知しつつ、彼があえて「未知なる感覚」にチャレンジしようとしていることを評価したい。
なお、同時期に東京・渋谷の東塔堂でも作品19点による同名の個展が開催された(2015年11月17日~11月28日)。こちらはより徹底して、風景から立ち上ってくる「気配」に集中している。

2015/11/18(水)(飯沢耕太郎)

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