artscapeレビュー
2016年08月15日号のレビュー/プレビュー
サイ・トゥオンブリーの写真 ─変奏のリリシズム─
会期:2016/04/23~2016/08/28
川村記念美術館[千葉県]
スクールの生徒たちと美術館見学。目的はステラの絵画とロスコ・ルームだが、サイ・トゥオンブリーの写真展もやってるので、あまり気が進まないけどせっかくだから見てみる。これが期待はずれに(?)よかった。当初気が進まなかったのは、トゥオンブリーはリヒターみたいに写真に連動した絵を描くわけではないので、写真には興味が持てなかったからだ。でも見てみたら、これが実になんというか、ストライクゾーンが狭いというか、ツボに見事にハマる写真だった。被写体はモランディのような数本の瓶だったり、古代遺跡だったり、部屋の片隅だったり、絵や彫刻の一部だったり、花のクローズアップだったり、とりとめのないものばかりで、生身の人間はまったく登場しない。ポラロイドで撮影されてるためか(展示作品は拡大したドライプリント)、ブレたり焦点が合わなかったりするものが多く、一見なんでこんなものを、こんなふうに撮っているのか理解しにくいが、同時に「好き」か「嫌い」かでいえば明らかに「好き」な写真であることに間違いない。ではなんで好きなのかというと、好きなモチーフとか奇抜な構図とかを狙っているからではなく(いや好きなモチーフもあるが)、四角い画面になにかが写るという意味で「写真」を撮っているからだ。説明を必要としない写真というか、弁解のない写真というか。もうそのまま「写真」。こういう写真は撮ろうと思って撮れるものではない。その困難さを絵にたとえれば、まさにトゥオンブリーの絵画になる。描こうと思って描ける絵ではないからだ。ああ見てよかった。写真100点のほか、絵画と彫刻約30点も加えた展示。
2016/07/17(日)(村田真)
千葉学建築計画事務所《釜石天神町復興公営住宅》ほか
[岩手県]
竣工:2016年
釜石では千葉学が手がけた復興住宅を幾つか見る。いずれも同系の色を使い、離れていても視界には入るので、仲間の建築だとわかる感じが興味深い。完成したばかりの大町1号復興住宅の一階は、通り抜け可能な場をまちに提供する。部屋は外周の通路側に閉じず、縁側的なイメージである。立体的に構成された各棟をめぐる体験が楽しい。
写真:左列=大町1号復興住宅 右列=千葉による別の復興住宅
2016/07/17(日)(五十嵐太郎)
新居千秋都市・建築設計《大船渡市民文化会館・市立図書館/リアスホール》/SALHAUS《陸前高田市立高田中学校》
[岩手県]
竣工:2008年/2016年
2011年3月、二度目に大船渡のリアスホールを訪れたときは、あらゆる場所が避難所に転用されていたが、いまは完全に平常に戻った状態である。続いて、コンペで選ばれたSALHAUSの海を望む陸前高田市立高田東中学校の現場へ。スタッフに案内してもらう。被災した2校を含む3校の統合移転であり、木梁の曲線美をもつシンボル的な大屋根が山の延長のように続く。室内はそれぞれの段差にリニアに部屋を並べ、上下は吹抜けや大階段でつなぎ明快なプログラムだ。
写真:上から。《リアスホール》、陸前高田中学校の現場、模型
2016/07/17(日)(五十嵐太郎)
りくカフェ本設
[岩手県]
竣工:2014年
陸前高田の中心部は、土地改造のために至るところに巨大なマスタバだらけである。自然による建築破壊よりも、人為的な工事が根本的に風景を変えてしまった。ここでは震災遺構として、被災した道の駅、集合住宅、一本松、ユース、学校が点在し、かろうじて記憶をつなぐ。現地でかさ上げの高さを確認すると、なるほどみんなの家は途中まで埋もれる。成瀬猪熊による本設りくカフェは、休日なので中に入れなかったが、片流れの屋根をを風車型に4つ配置し、シンプルながら印象的な外観である。
写真:左=上から、陸前高田市役所、道の駅、被災集合住宅 右=上から、一本松、学校、《りくカフェ》
2016/07/17(日)(五十嵐太郎)
伊東豊雄建築設計事務所《K-port》
[宮城県]
竣工:2014年
気仙沼では、伊東豊雄が設計した《K-port》で、コーヒーを飲む。《座・高円寺》をほうふつさせる特徴的な屋根のカフェを、鉄の庇で磯屋水産と連結する。びっくりするくらい人で賑わっていた。海辺で被災した気仙沼向洋高校と、山側の仮設校舎の両方を訪れた。下部に津波が直撃した被災校舎はぽつんと残るが、そのままの状態で囲われ、手前には巨大なマスタバがあって、視界がさえぎられる。近くには水難慰霊の塔や破壊された墓が寂しげな風景で、独特の雰囲気をかもし出す。
写真:左列=《K-porrt》 右=上から2枚、被災した気仙沼向洋高校、気仙沼向洋高校の仮設校舎、水難慰霊の塔
2016/07/17(日)(五十嵐太郎)