artscapeレビュー

2016年08月15日号のレビュー/プレビュー

石内都展 Frida is

会期:2016/06/28~2016/08/21

資生堂ギャラリー[東京都]

メキシコシティにあるフリーダ・カーロ博物館からの依頼により、フリーダの遺品を撮った写真。パリやロンドンでは展示されたが、日本では初公開となる。遺品は色鮮やかなドレスをはじめ、コルセット、靴、装身具や化粧品、眼鏡、義足、割れた鏡など。カメラは大型ではなく35ミリ、特別な照明も使わず自然光の下で撮ったという。これまで傷や痛みの記憶、遺品などを撮ってきた石内ならではのモチーフだ。フリーダほど心身ともに傷を抱えた女性はいないからね。

2016/07/15(金)(村田真)

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瀧本光國「彫相」

会期:2016/06/25~2016/07/30

東京画廊+BTAP[東京都]

瀧本はイタリアで豊福知徳に師事した彫刻家で、作品は一見シュテファン・バルケンホールみたいな荒削りの人物像に着彩した木彫。高さ2メートルを超す片脚だけの大作もあれば、15センチほどの小品もいくつかある。どこかで見たことあるような気がする作品もあって、なんだろうと思ったら、萬鉄五郎の《日傘の裸婦》だった。ほかの作品も絵を元にしているらしい。裸婦が中心だが、窓枠の向こうの人物とか、ドアの陰から顔を出す人物といった状況を彫刻にした小品もあって、のどから手が出そうになる。ちなみにタイトルにある「相」とは木目のことであり、また木を目で見ることでもあるらしい。

2016/07/15(金)(村田真)

From Life─写真に生命を吹き込んだ女性 ジュリア・マーガレット・キャメロン

会期:2016/07/02~2016/09/19

三菱一号館美術館[東京都]

昨年、ロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館(V&A)で、生誕200年を記念する回顧展が開かれたジュリア・マーガレット・キャメロンの巡回展。キャメロンは48歳のとき娘夫妻からカメラを贈られて撮り始めたという遅咲きで、その後の活動期間も亡くなるまでの15年足らずにすぎないが、写真を撮り始めてわずか1年半後にはV&Aの館長に作品を売り込み、首尾よく収蔵され(寄贈を含めて114点も!)、展示されている。それが1865年のことなので、初展示から150年の記念展でもある。それにしても日本だったら、カメラを手にしてまもないアマチュアがピンぼけ写真を美術館に売り込むなんて、勘違いの中年おばさんと非難されるはず。館長もよく購入の決断を下したものだ。実際キャメロンの写真はブレやピンぼけ、プリントの傷も多く、技術的にはどうかと思うが、結果的にそれが19世紀ヴィクトリア朝の空気を写し出しているのも事実。というよりむしろ、キャメロンの写真が19世紀イギリス社会のイメージを決定づけた面もあるかもしれない。それほど彼女の写真は人口に膾炙しており、キャメロンの名前を知らなくても作品はどこかで見たことがあるはずなのだ。特に知られているのが、アンニュイな表情をした一群の少女写真であり、詩人のテニスン、生物学者のダーウィン、天文学者のハーシェルらの肖像写真だ。思い出したけど、映画「ハリー・ポッター」のハーマイオニーやダンブルドア校長などは、キャメロンの写真から出てきたんじゃないかと思えるほど似ている。ああいうイメージなのだ。

2016/07/15(金)(村田真)

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12 Rooms 12 Artists 12の部屋、12のアーティスト UBSアート・コレクションより

会期:2016/07/02~2016/09/04

東京ステーションギャラリー[東京都]

世界最大のアートフェア「アート・バーゼル」などに支援する金融グループ、UBSの企業コレクション3万点以上のなかから、12作家の約80点を選んで展示。「12の部屋」といっても作家ごとに12室に分けているわけではなく、ただ作家別に展示してあるだけ。エド・ルーシェとルシアン・フロイドが中心で、ふたりで50点以上を占めている。チラシにはフロイドの油彩画が使われているが、フロイドの油彩はこれ1点だけで、25点はエッチング、1点は水彩だ。エド・ルーシェは28点のうち油彩は3点だけで、あとは版画とドローイングばかり。ミンモ・パラディーノは油彩1点、サンドロ・キアは油彩2点、デイヴィッド・ホックニーはドローイング2点にフォトコラージュ1点の出品。なんか期待はずれの展覧会だが、唯一、片脚が台座からはみ出したアンソニー・カロのブロンズ彫刻《オダリスク》は、見て得した気分になれた。

2016/07/15(金)(村田真)

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石内都展 Frida is

会期:2016/06/28~2016/08/21

資生堂ギャラリー[東京都]

石内都の写真は、原爆の被災者の遺品を撮影した「ひろしま」(2008)を契機にして大きく脱皮を遂げる。被写体が人間からモノに移行し、鮮やかなカラー写真で撮影されるようになる。白バックで、衣服(布)がふわふわと宙に漂うような撮り方も特徴的で、人々の記憶が纏わりつく遺品を撮影しているにもかかわらず、軽やかで遊戯的な雰囲気が生じてくる。そのような作品のあり方は、今回の「Frida is」にもそのまま踏襲されている。
このシリーズは、2012年にフリーダ・カーロ美術館の依頼を受けてメキシコ・シティで撮影され、写真集『Frida by Ishiuchi』(RM、2013)が刊行された。その制作過程をドキュメントした『フリーダ・カーロの遺品─石内都、織るように』(監督=小谷忠典)も2015年に公開されている。あらかじめ、どんな作品なのか充分に承知しているつもりで出かけたのだが、会場で実際に展示を見て、とても新鮮な印象を受けることに逆に驚いた。石内の展示のインスタレーションのうまさには定評があるが、今回も大小の作品の配置の仕方が絶妙で、観客を写真の世界に引き込んでいく。写真の色味に合わせるように、壁を黄色、青、赤、藤色に塗り分けたのも素晴らしいアイディアだ。個々の作品がより膨らみを持って見えてくるように感じた。フリーダ・カーロのトレードマークというべき派手な色合いの民族衣装よりも、むしろ薬壜、洗面器、眼鏡、体温計といった小物をいとおしむように撮影した作品のパートに見所が多いのではないだろうか。
展覧会にあわせて写真集『フリーダ 愛と痛み』(岩波書店)とエッセイ集『写真関係』(筑摩書房)が刊行されている。また、同時期に開催されている「BEAUTY CROSSING GINZA」の企画の一環として、資生堂パーラー、資生堂銀座オフィス、SHISEIDO THE GINZAなどでも、石内の「NAKED ROSE」や「1・9・4・7」のシリーズが展示されていた。

2016/07/15(金)(飯沢耕太郎)

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2016年08月15日号の
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