artscapeレビュー
2009年06月15日号のレビュー/プレビュー
奥佳弥『リートフェルトの建築』
発行所:TOTO出版
発行日:2009年2月28日
オランダの近代建築研究者である奥佳弥が企画した本であり、それに応えて写真家のキム・ズワルツが協力し、本国でも出ていないリートフェルトの総合的な作品集が刊行された。リートフェルトと言えば、どうしても珠玉の《シュレーダー邸》を思いだすが、これはそれ以外の作品と活動の全貌を網羅的に紹介していることが特徴だ。家具から住宅へ。そしてさまざまな生活の空間のデザイン。戦後になって、ようやく公共施設も手がけるようになった彼の生涯を数多くの写真とともにたどることができる。
2009/05/31(日)(五十嵐太郎)
『Arup Japan 建築のトータル・ソリューションをめざして』
発行所:誠文堂新光社
発行日:2009年4月24日
会期が少なかったために、残念ながらアラップ・ジャパンの日本事務所設立20周年記念の展覧会は見逃したが、本書を読むと、その全容がうかがえる。構造だけではない。設備や環境までを含む、トータルな最先鋭のエンジニアリング集団が、建築家と対話をしながら、何にとりくんでいるかがよくわかる。内容も、座談会形式で語られているので、読みやすい。テクノロジーが牽引する近年の建築デザインの状況を鑑みると、アラップの存在感はさらに増しているだろう。個人的には、大学の同期だった小栗新が、どういう活躍をしているかもうかがえて興味深い。
2009/05/31(日)(五十嵐太郎)
ホンマタカシ『たのしい写真 よい子のための写真教室』
発行所:平凡社
発行日:2009年5月
建築の本ではないが、郊外の風景や金沢21世紀美術館など、現代建築の撮影でも知られる写真家、ホンマタカシの本である。この春には、『アサヒカメラ』の連載枠で鼎談もさせていただいたが、彼は建築への興味ももつ。サブタイトルに、「よい子のための写真教室」とあるように、わかりやすく本人の言葉で(借り物ではなく)、第1章で写真の歴史をコンパクトにふりかえりつつ、第2章はワークショップを通じて、具体的な作品の分析と批評を行なう。おまけでは、同じ写真家の立場から行なった、アメリカの建築写真家の大御所、ジュリウス・シュルマンとの対話も収録されている。建築の世界でも、こんな「たのしい建築」の本があったら良い。
2009/05/31(日)(五十嵐太郎)
村上心『THE GRAND TOUR ライカと巡る世界の建築風景』
発行所:建築ジャーナル
発行日:2009年4月
建築再生の研究者が、海外の調査やワークショップのあいだに、撮りためた写真をもとにして、「建てない勇気」や「これからの建築家職能」など、幾つかのテーマを設定し、エッセイを綴る。これをグランドツアーに見立て、パリに始まり、シドニーやソウル、アムステルダムやハワイを経て、再びパリに戻る。いわゆる建築写真ではない。街の風景をとらえた写真である。これらを見ると、旅の気分を感じながら、さまざまな思考をめぐらすことができる。
2009/05/31(日)(五十嵐太郎)
『10+1 No.48 特集:アルゴリズム的思考と建築』
発行所:INAX出版
発行日:2007年9月30日
建築におけるアルゴリズムという概念の火付け役の一つとなった本。その先見性が素晴らしい。編集協力は柄沢祐輔。単にアルゴリズムを新しい建築用語として持ち出そうとしているわけではない。柄沢は、アルゴリズムを「決定ルールの時系列をともなった連なり」として定義し、広義な文脈に結びつける。巻頭には磯崎新、伊東豊雄らへのロング・インタビューもあり、もっともハードコアな建築家の思考のなかに「アルゴリズム的思考」の痕跡を見つけ、現在の流れへと結びつけていく。過去の建築や、建築以外の分野からも「アルゴリズム的思考」を抽出する。おそらく、早すぎた特集だったともいえる。筆者も本書に関わっていたのだが、最近になって読み直してみて、新しく理解できた部分が多かった。
例えば『計算不可能性を設計する──ITアーキテクトの未来への挑戦』の著者である神成淳司へのインタビューは、コンピュータ・サイエンスの話だと思って当初は読み飛ばしていたのだが、四つの計算不可能性をめぐって情報レベルと建築レベルの話が仮構されており、アルゴリズムというより、情報科学の見地から建築を考える思考にまで至っていて興味深かった。計算不可能性を分類して見いだすことで、それを乗り越える新しい可能性を見つけるという思考を、建築にも適用しようとしているのだ。
2009/05/31(日)(松田達)