artscapeレビュー
2009年06月15日号のレビュー/プレビュー
創造界隈のアーティストたち vol.1
会期:2009/05/01~2009/05/17
ヨコハマ・クリエイティブシティ・センター[神奈川県]
BankART1929として使われていた旧第一銀行の建物が、横浜市芸術文化振興財団のYCC(ヨコハマ・クリエイティブシティ・センター)としてリニューアルオープンした。その記念として横浜を拠点とする10人のアーティストが、1階ホールのアーチ型の細長い窓をキャンヴァス代わりに作品を制作。いつものように予算がない、時間もないという絶望的な状況下、いかにアイディアだけで勝負するかが問われた。フランシス真悟は色違いの透明シートをステンドグラスみたいに貼りつけ、増田拓史は渋谷の路上をフロッタージュしたものをシルクスクリーンで刷り、シムラブロスは窓をシートでおおって映像を流し、笛田亜希はカモメを数匹「だまし絵」のように描く、といった調子で、同じ条件にもかかわらずアイディアはきれいに分散した。貧すれば鈍するで、もっとかぶるかと思ったのに、いい意味で裏切られた。でもこうやってカネもヒマもなくアーティストがこき使われるのを見ると、なにが「創造界隈のアーティスト」だ「クリエイティブシティ」だといってみたくもなる。
2009/05/05(火)(村田真)
小山泰介「entoropix」
会期:2009/04/24~2009/05/19
G/P GALLERY[東京都]
雨の日に透明傘をさして恵比寿のNADiff A/P/A/R/Tへ。小山泰介は昨年写真集『entropix』(アートビートパブリッシャーズ)を刊行するなど、このところ存在感を増している若手写真家。都市の表皮を引きはがすようにデジタルカメラで切り取り、そのまま大きく引き伸ばしてプリント、あるいはプロジェクトする。面全体にオールオーヴァーで広がったイメージは、色と質感のみに抽象化され、視神経をダイレクトに刺激する。以前はその手続きが不徹底で、ありきたりの意味の断片を不用意に呼び起こすこともあったのだが、その純度が急速に増してきた。
今回の展示のメインになる「Rainbow Form」のシリーズに、彼の現在の到達点がよくあらわれている。ハレーションを起こしそうに鮮やかな、レインボー・カラーの印刷物の手前にアクリル板を置き、その擦り傷やテープの痕ごと撮影した作品である。これまでは個々の作品が単体で発表されることが多かったが、シリーズ化することで彼のやりたいことがはっきり見えてきた。こうなれば、純粋なカラー・チャートにまで抽象化を進めていくしかないだろう。ただし、そういう試みはゲルハルト・リヒターやジェームズ・ウェリングが、既にかなり徹底しておこなっている。小山にはなるべく早めにそこまで到達し、さらにその先をめざしていってほしい。
2009/05/06(水)(飯沢耕太郎)
鷹野隆大「おれと」
会期:2009/04/28~2009/06/09
NADiff Gallery[東京都]
そのまま地下のNADiff Galleryへ。いつもながら、ぬけぬけとしたタイトルの鷹野隆大の個展である。仰々しい金ぴかやシルバーの額縁におさまった、4×5インチサイズのコンタクトプリントが、壁にずらりと並んでいる。大部分は彼がこれまで発表してきたメール・ヌードのシリーズの副産物というべきもので、全裸のモデルと鷹野本人(こちらも全裸)が、肩を組み、腰に手を回してカメラを見つめる、記念写真的なポートレートである。
なぜこんなことをやろうと思いついたのかはよくわからないが、生真面目さと戸惑いを含んだ表情でこちらを向く二人の表情やポーズが、妙に間をはずしていて笑いを誘う。こういう写真はとかく自虐的になりがちなのだが(深瀬昌久の、互いの舌を搦ませた「ベロベロ」がそうだった)、鷹野がやると風通しのよい「いい加減の」ポートレートに仕上がっている。彼の高度なコミュニケーション能力が的確に発揮された、小品だが味わい深いシリーズだった。なお、ページをめくって動画のような効果を楽しむ写真集『ぱらぱら マリア/としひさ』(Akira Nagasawa Publishing)と『ぱらぱら ソフトクリーム/歯磨き』(同)も同時に発売された。
2009/05/06(水)(飯沢耕太郎)
日本の美術館名品展
会期:2009/04/25~2009/07/05
東京都美術館[東京都]
全国約100館の公立美術館から、選りすぐりのコレクション計220点を集めた名品展。なんの意味があるのかと思ったら、美術館連絡協議会(美連協)の創立25周年記念ということらしい。しかし「さすがに名品が集まった」とは残念ながら思えず、「なんだ、かき集めてもこの程度か」というのが正直な感想。これぜーんぶ合わせたってヨーロッパじゃ三流美術館だろうなあ。セガンティーニ(ふくやま美術館)、エゴン・シーレ(豊田市美術館)、ピカビア(広島県立美術館)、岸田劉生(新潟県立近代美術館、万代島美術館)、甲斐庄楠音(広島県立美術館)など興味深い作品もあったが。
2009/05/07(木)(村田真)
HIROMIX「Early Spring, Brighten of Your Mind」
会期:2009/04/11~2009/05/16
hiromiyoshi[東京都]
1995年に「写真新世紀」でグランプリを受賞し、その後まさに写真界の寵児となったHIROMIX。だが2000年代以降はその活動が鈍り、影の薄い存在になっていた。イノセントさと脆さをあわせ持つ彼女にとって、写真やアートの世界はあまり生きやすい場所ではなさそうだ。
その彼女のひさしぶりの個展。清澄白河のhiromiyoshiの会場で作品を目にして、ちょっと泣きそうになった。そこにあるのは、キラキラ輝く光の粒子に包み込まれたポートレート、静物(花)、風景である。それに自作のイラストが加わり、男性モデルをやはり光に溶け込ませるように撮影した映像作品も上映されている。写真作品は基本的に彼女の第二作品集『光』(ロッキングオン、1997年)の延長上にある。変わっていないというのが最初の印象だったが、会場にずっといるうちにその「光」の質がまるで違うことに気づいた。以前は子どもがはしゃぐように、さまざまな物理的な光の変化に感応していただけに過ぎないが、今回の展示にあふれているのはむしろ「内在的」といえるような感触の光だ。HIROMIXは祈りのようにその輝きを抱きとっている。
ここでは書ききれないが、僕はHIROMIXの仕事を、1970年代に成立する「純粋少女漫画」の系譜の正統的な後継者と位置づけている(PHP新書で刊行した『戦後民主主義と少女漫画』を参照)。「乙女ちっく漫画」風の彼女のイラストを見れば、その影響関係は明らかだろう。写真や映像の中で、キラキラ瞬いている光は、少女漫画の主人公の瞳の中で輝いているのと同じものだ。
2009/05/07(木)(飯沢耕太郎)