artscapeレビュー

2009年06月15日号のレビュー/プレビュー

白峰地区まちづくり

[石川県]

白峰地区は、石川県の南端、白山の登山口にあたり、福井県と接する位置にある。興味深いのは、江戸時代に加賀藩と福井藩の間にあって、所属をめぐる争いが絶えなかったことから天領とされ、そのため独自の文化や言葉(方言)をもつというところである。筆者は石川県の出身であるが、恥ずかしながらそのことを最近まで知らなかった。白峰型といわれる古民家による集落がまとまっており、伝建地区、そして世界遺産を目指しているという。白峰型住宅は、豪雪地帯であることから、三階建て切妻屋根の木造で、張り出しがない、二階に物資の出し入れ用の出入り口がある、三階は養蚕用の大部屋があるなどの特徴を持つ住宅である。また雪だるま祭りや雪だるまカフェの創設など、白峰地区は近年まちづくりに力を入れている。
ところで、一つ思い出したのはスペインとフランスに挟まれた小国アンドラのことで、この国は10世紀以降統治権をめぐって争いが起こり、1278年以降は、スペイン側(ウルヘル司教)とフランス側(フォア伯、フランス国王、フランス大統領)によって共同統治されることになったという。冬期五ヶ月間雪に閉ざされるというこの国と白峰は、地理的な位置づけも似ている。国境に存在する国家としてはリヒテンシュタインもあげられるだろうが、歴史的な経緯が近いのはアンドラであろう。ヨーロッパにいたときに、これらのミニ国家の存在は不思議で気になっていた。国境のない日本に戻ってきて、あまり考えたことがなかったが、白峰地区以外にも、日本にこのような境界に位置するからこそ生まれた独自の文化をもつ都市があるとしたら興味深いのだが、どうだろうか。白峰地区を知ったことで急に興味が湧いてきた。

2009/05/30(土)(松田達)

小沢さかえ「珠玉のポエジー」

会期:2009/05/31~2009/07/05

MORI YU GALLERY[京都府]

小沢さかえの新作展。物語に満ちたモチーフやそのイメージ、画面からうかがえる筆跡の表情には力強い魅力があって、ぐいぐいとその世界に惹きつけられていく。一番の最新作は、以前の作品よりも光の描写の彩度が高く、解放感に溢れて清々しい。しかしながらそれだけでなく、小沢の作品にはいつも共通してどこかに「私」という存在への追究と苦悩がうかがえる。無意識と意識の間にある闇のような、暗さを抱えた印象もまた彼女の作品の魅力だと思う。複雑で繊細な心の襞をいきいきと描いている今展、まさに珠玉だった。

来年1月には、国立国際美術館で開催される「国立国際美術館新築移転5周年記念 現代日本の絵画(仮称)」への出品も決まっている。少し先だがこちらにも期待が膨らむ。
国立国際美術館新築移転5周年記念 現代日本の絵画(仮称)
会期:2010年1月16日(土)~4月4日(日)
会場:国立国際美術館

2009/05/31(酒井千穂)

マリコマエクボの足日記

会期:2009/05/26~2009/05/31

立体ギャラリー射手座[京都府]

タイトルの通り、日々自らの足を描いているというだけなのだが、ひとつずつに微妙な表情の違いがうかがえて興味を引かれる。ただしそれは描いた時の作家の姿勢や爪のペディキュアなどから作家の気分を想像して比較できることだった。靴下や靴を履いている足もあれば、裸足の足もあり、なぜそこがバラバラなのか状況が読み取れないのが残念。いつ、どこでというポイントが解ればもっと魅力的なものになった気がする。

2009/05/31(日)(酒井千穂)

『凸と凹と 竹中工務店設計部のなかみ』

発行所:美術出版社

発行日:2009年3月20日

大手ゼネコンの竹中工務店の本である。だが、よくあるようなキレイな竣工写真を並べた立派な作品集ではない。美術出版社から刊行されているだけではなく、ぽむ企画らが企画協力に入っている。会社という仮面を外し、ああ、こんな人が設計しているんだという顔が見えるところが、この本の特徴だ。文章はまだ堅い部分が残っているけど、思い切った形式に拍手を送りたい。最後には、設計した学園の生徒代表の作文も収録している。

2009/05/31(日)(五十嵐太郎)

青木茂『団地をリファインしよう。』

発行所:リファイン建築研究会

発行日:2009年5月

リファイン建築で一躍注目を浴び、ついには大学の先生にもなった青木茂の本である。建築系ラジオのインタビューでも語っているように、学生への教科書にも使えることを想定してつくられたものだ。本当はすごい構造に詳しいのだけど、ここではそれをセーブして、学生、いや一般のひとにも団地をリファインできる可能性を想像させるような本になっている。みかんぐみの団地再生本に続く重要なコンテンツだ。しかしこちらは大判の写真で、もっとストレートに視覚に訴えかける。

2009/05/31(日)(五十嵐太郎)

2009年06月15日号の
artscapeレビュー