artscapeレビュー
2009年06月15日号のレビュー/プレビュー
石内都+飯沢耕太郎「石内都 Infinity ∞ 身体のゆくえ」開催記念対談
会期:2009/05/09
群馬県立近代美術館 2F講堂[群馬県]
昨年以来大きな展覧会が相次ぎ、毎日芸術賞も受賞した石内都。群馬県高崎市の群馬県立近代美術館で開催された「石内都 Infinity ∞ 身体のゆくえ」展の記念対談のお相手をして感じたのは、以前に比べて言動が柔らかになり、自信がみなぎっていることだ。かつてはいら立ちが前面に出るような時があって、正直怖かった。もちろん今でも舌鋒の鋭さに変わりはないのだが、他者や世界を受容する姿勢がより強くなってきているのではないだろうか。
それは作品にもよくあらわれていて、「1・9・4・7」「SCARS」「INNOCENCE」「mother's」そして「ひろしま」と作品を年代順にたどっていくうちに、少しずつ受容性、順応性が際立ってくるように感じる。「mother's」の途中で、母親の遺品の口紅の赤を撮るため、モノクロームからカラーにフィルムを変えたのも大きかったのではないか。「より日常性の強い」カラーの表現が、これまでは強引にねじ伏せる対象だった現実世界との「和解」のきっかけになっているようにも思える。
「ひろしま」の軽やかに宙を舞うような写真の雰囲気には、これまで撮影されてきた重苦しい「HIROSHIMA」あるいは「ヒロシマ」のイメージを覆す、しなやかな勁さがある。次はこの作品を持って、「アメリカに仇討ちに行きたい」とのこと。このいい方は、いかにも「戦う写真家」石内都らしかった。なお、群馬県桐生市の大川美術館でも、彼女が生まれ故郷の桐生で撮影した写真を中心に「上州の風にのって 1976/2008」(2009年4月4日~6月28日)が開催されている。
2009/05/09(土)(飯沢耕太郎)
北城貴子「Resonating light」
会期:2009/04/03~2009/05/10
sowaka[京都府]
2期に分けて開催される北城貴子の個展、前期はドローイング作品を展示。風の音や鳥のさえずりが聞こえてきそうな木漏れ日と水辺の描写には湿度や温度も感じられる。さらりと描かれたタッチの軽さを感じるだけにその臨場感も生々しく、一つひとつを見ていると、その場に訪れたことがあるような気分にもなっていく。後期はペインティングの展示(6月14日まで)。
2009/05/10(日)(酒井千穂)
日本の自画像 写真が描く戦後 1945~1964
会期:2009/05/02~2009/06/21
世田谷美術館[東京都]
フランスの日本写真史研究者、マーク・フューステルの企画による戦後写真家の選抜展。出品者は石元泰博、川田喜久治、木村伊兵衛、田沼武能、東松照明、土門拳、長野重一、奈良原一高、濱谷浩、林忠彦、細江英公の11名である。この顔ぶれも、「1、新しい日本へ」「2、敗戦の余波」「3、伝統と近代のはざまで」という三部構成による展示も、まったく新味はない。もう少し、近年の「掘り起こし」の成果を取り込んでほしかった気もする。たとえば、ここに岡本太郎や植田正治や大辻清司の写真があれば、また違った見え方になるのではないだろうか。
とはいえ、このような啓蒙的な展覧会は、写真以外では実感することがむずかしい敗戦後のリアルな空気感を若い観客に伝えるのに、大きな役目を果たすだろう。また目に馴染んだ写真でも、あらためて見直すと思わぬ発見があることもある。林忠彦の「日本女性と東京見物する進駐軍兵士、皇居前広場」(1954年)に、兵士と腕を組んで皇居前広場を闊歩する女性を、羨望と嫉妬が混じり合った何ともいえない視線で見返す男性の姿が写っている。このような細部の厚みを、それぞれの写真で丁寧に辿っていくべきだろう。
本展はこのあと、土門拳記念館(2009年8月27日~10月28日)、愛知県美術館(同11月6日~12月13日)、清里フォトアートミュージアム(2010年6月5日~8月31日)に巡回する。
2009/05/10(日)(飯沢耕太郎)
上畠益雄「チヨガミックスの世界」
会期:2009/05/09~2009/05/31
創造空間9001[神奈川県]
カラフルな千代紙の柄を使ったペーパークラフトやCG作品の展示。見た目にも明るく華やかなせいか、現代美術展とはケタ違いにたくさんの人が立ち寄るという。もともと駅舎を改装したスペースだけに人通りは多いのだが、現代美術だと敬遠されてしまうらしい。恐るべし千代紙。
2009/05/11(月)(村田真)
スピンオフ──黄金町/ZAIM
会期:2009/05/10~2009/05/23
バザールコミュニティ[神奈川県]
黄金町とZAIMを拠点に活動するアーティストの小品展。私も思いっきり小品(5×3.8cm)を出させてもらったが、そもそもなぜこういう展覧会が開かれるのかも知らず、搬入も搬出も他人任せという無責任なものであった。いったいなんの展覧会だったんだろう、いまだに謎だ。
2009/05/11(月)(村田真)