artscapeレビュー

2009年06月15日号のレビュー/プレビュー

田口和奈「そのものがそれそのものとして」

会期:2009/04/11~2009/05/23

ShugoArts[東京都]

HIROMIXの展示の一階下、ShugoArtsに回って田口和奈の個展を見る。どうやら完全に突き抜けてしまったという印象。
キャンバスに絵を描き、それを撮影して大判のプリントに焼き付けるという手法は、まさに写真と絵画のハイブリッドで、見る者を混乱させるとともに批評言語的にもうまく収まりがつかない。とはいえ、今回の展示では技術的に洗練の極みに達するとともに、テーマがこれまでのような「肖像」ではなく、文字通り「宇宙」に拡大してしまったことで、作品=被造物としてのとんでもない凄みが生じてきている。こうなると、もはや写真でも絵画でもどちらでもいいのではないだろうか。
146.7×120cmの画面に撒き散らされた星々は、「失ったものを修復する」と名づけられているが、これはどうやら印画紙の上に、さらに白い顔料で網点状のイメージが描き加えられているためらしい。この「修復」によって、画面にはさらに二重三重の点滅する奥行きがあらわれ、見続けていると頭がぐらぐらしてくるほどだ。この魔術的空間は、オーストラリアのアボリジニの絵画を思わせる。アボリジニたちは「ドリームタイム」と呼ばれる瞑想状態に入り込むことによって「エネルギー場にひたされた原型の状態」(中沢新一)を経験し、それを図像化しようと試みる。どうやら田口も、彼女なりの「ドリームタイム」に突入しつつあるように思えるのだ。

2009/05/07(木)(飯沢耕太郎)

原口典之 展「社会と物質」

会期:2009/05/08~2009/06/14

BankARTスタジオNYK[神奈川県]

原寸大に再現されたスカイホークの尾翼、10×5メートルの廃油のプール、重さ10トンの巨大ゴムチューブ……。重厚長大の代名詞みたいな作品群が質実剛健な倉庫空間に、ようやく終の住処を見つけましたみたいな風情で鎮座している。たとえば、3階の部屋を仕切る黒い鉄の扉の向こうに、黒い正方形のポリウレタン作品が並んでいるのは偶然ではないはず。作品と建築がいたるところ共鳴しているのだ。もうこのまま原口典之美術館にしてしまったらどうだろう。

2009/05/08(金)(村田真)

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坂倉準三《岐阜市民会館》

[岐阜県]

竣工:1967年

坂倉準三設計で1967年に竣工、翌1968年にはBCS賞を受賞している。面白いのは前期と後期のル・コルビュジエ建築が同居しているような印象を感じさせるところ。水平性の強い二階部分のヴォリュームは明らかに前期のル・コルビュジエの影響であるが、円錐台形の上部を斜めに切り取ったようなホールは、《チャンディガール議事堂》や《フィルミニのサン・ピエール教会》に現われる後期の形態と関連づけられるだろう。幾何学性と有機性の組み合わせであり、坂倉の後期コルビュジエ解釈と受容を見たような気がした。

2009/05/08(金)(松田達)

安藤忠雄《長良川国際会議場》

[岐阜県]

竣工:1995年

設計は安藤忠雄。なぜか建築雑誌ではあまり見た覚えがなかったのだが、訪れてみれば確かに安藤建築。同行した多く人がこの安藤建築についてはほとんど知らなかった。雑誌にあまり載っていなかったかどうかは確認もとれず、それは印象に過ぎないけれども、そのため完成度が高くなかったのでは、という多少の疑念をもって建築をめぐることになった。すると、不思議なことにその疑念は歩けば歩くほど薄らいでいき、いつの間にかちょうど当初の印象とは反転することとなった。屋上部分の巨大な階段状庭園と卵形の国際会議場、ところどころに仕掛けられた風景を切り取るヴィスタなど、想像以上に豊かな空間体験が得られた。石川県の西田幾多郎記念哲学館と似たところを感じたが、こちらの方が7年も前に竣工していて、その原型をなしていのたではないか。いくつか訪れた安藤建築のなかでも、特に気に入った建築である。

2009/05/08(金)(松田達)

たむらあおい「かみさまあそび」

会期:2009/05/02~2009/05/17

arton art gallery[京都府]

時間が止まった世界のように平坦な色面の構成。しかしモデルの動作と植物の描写がしなやかで、深い奥行きとどこまでも続くようなリズムが感じられる音楽のような絵画だと思う。黒い背景と仮面のモチーフなど、絶望の雰囲気も漂っているが、シンメトリックな画面や、よく見ると笑いを誘うユーモラスな人物の表情に、心の機微が込められているようで、やっぱり美しい。

2009/05/09(土)(酒井千穂)

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