artscapeレビュー

2009年09月15日号のレビュー/プレビュー

長谷川一『アトラクションの日常』

発行所:河出書房新社

発行日:2009年7月7日

本書は、「揺られる」や「流される」など、10の動詞を掲げながら、われわれの社会がアトラクション化し、テーマパークとなっていく状況を論じたもの。アトラクションとは、出来事(イベント)に参加させられる工学的な反復運動である。近代以降の身体は、さまざまな日常の場面で、アトラクションに包まれている。駅、マーケット、コンビニ、鉄道や客船、そして舞台。機械と身体が縫合される空間の考察の数々は、ビルディングタイプ論とも接合し、建築の分野に対しても多くの示唆を与えてくれる。最終章は、「夢みる」ことさえも、アトラクション化されていると指摘し、「現在」をとりかえすことを唱えている。

2009/08/31(月)(五十嵐太郎)

遠藤秀平 編『ネクストアーキテクト2 カケル建築家』

発行所:学芸出版社

発行日:2009年8月10日

建築家、構造家、計画者らが原風景を語るシリーズの第二弾である。第一弾は『ネクストアーキテクト─8人はこうして建築家になった』だったから、今回は職種も広がった。筆者も卒業設計を語るシリーズを彰国社で企画したけれども、これはさらに幼少の時代に触れているとことが大きな特徴である。第二弾もやはり、小野田泰明、曽我部昌史、千葉学など、よく知っているメンバーであったが、こんな時代を過ごしていたのかと初めて知ることが多い。まだ何者でもない頃に、彼らは何をしていたのかが赤裸々に語られる。そうした意味で、学生が本書を読むことをすすめたい。

2009/08/31(月)(五十嵐太郎)

松本淳『マイレア邸/アルヴァー・アールト』

発行所:東京書籍

発行日:2009年8月8日

20世紀名作住宅シリーズの第四弾である。東工大スクールが得意とする抽象化された構成論ではすくいとれない、アールト建築の複雑な魅力から研究を始めたという松本淳が執筆したものだ。ディミトリー・ポルフィリオスが論じて有名になった折衷的なコラージュという評価に追従するのではなく、新しく継ぎ目がないハイブリッドとしてのマイレア邸論を展開している。後半は、アールトの各作品を時系列にそって紹介している。

2009/08/31(月)(五十嵐太郎)

大山顕『高架下建築』

発行所:洋泉社 2009

発行日:2009年3月4日

先日、別府を訪れたとき、高架下にアジア的なマーケットが展開されている風景に感心したが、新しい景観への感性を表明した『工場萌え』の大山顕が高架下の建築を紹介した本である。高架下の額縁に入れられた絵のようという表現は言い得て妙。神戸、大阪、首都圏のフィールドワークを通じて、土木と親密な空間の接合を探る。考えてみると、ル・コルビュジエのアルジェの計画も、高架下建築だった。

2009/08/31(月)(五十嵐太郎)

都築響一『現代美術場外乱闘』/『デザイン豚よ木に登れ』

発行所:usimaoda

発行日:2009年6月6日

エロ・グロの秘宝館やラブホテルなど、アートの越境線を疾走する事例の数々が紹介され、「かっこ悪い」と「かっこいい」のあいだをゆさぶられ、ぐるぐるめぐり、(良識的な人は)目眩をおこしそうな本である。実際、以前にフィレンツェの動物学博物館を訪れたとき、医学解剖の人体標本をつくる職人と芸術家が紙一重であることを痛感した。実は、これらの本は筆者の仕事と重なりあう部分も多く、『過防備都市』でとりあげた排除型ベンチや『ヤンキー文化論序説』の先駆者として、都築の仕事からは目が離せない。

2009/08/31(月)(五十嵐太郎)

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