artscapeレビュー

2010年11月01日号のレビュー/プレビュー

風間サチコ個展「平成博2010」

会期:2010/10/07~2010/11/27

無人島プロダクション[東京都]

風間サチコの新作展。「ふるさと創生館」や「バブル館」など、架空の博覧会によって平成という時代を回顧する設定で、比較的小さな版画作品9点を発表した。ワールドトレードセンターの屋上で下半身を靴の中に納めながらプレッツェルをほおばるブッシュや、歴代総理大臣の顔をぶら下げた観覧車など、風間ならではのアイロニーが小気味よい。さらに今回の白眉が、風間が個人的にコレクションしてきたという万国博覧会の記念絵葉書。会場内の障子に貼りつけられた無数の絵葉書の一つひとつが、じつにおもしろい。国家の栄華を象徴するパビリオンの数々は、どれも奇妙奇天烈であり、これらの建築が実在していたことに眼を疑うほどだ。けれども、現在の都市建築も、未来の視点から見れば、同じように滑稽なのかもしれない。絵葉書というメディアが伝える戦前戦中の歴史と、版画というメディアが伝える平成の歴史のはざまで、来場者は歴史の幅と厚みを体感することができたわけだ。無名の作り手によってつくられ、無名の大衆によって楽しまれてきた絵葉書という限界芸術を、みずからの美術作品と同列に並べて発表する風間の心意気もあっぱれである。

2010/10/09(土)(福住廉)

陰影礼賛

会期:2010/09/08~2010/10/18

国立新美術館[東京都]

谷崎潤一郎による随筆の題名を冠したコレクション展。全国に5つある国立美術館が所蔵する3万点の作品の中から170点あまりの絵画、写真、版画、映像などを展示した。それらの作品には、なるほど、地面に落ちる「影」と光が及ばない「陰」がそれぞれ表わされているのがわかる。けれども、結局のところ、それ以上でもそれ以下でもなく、きわめて大味な印象しか残らない。かねてから公立美術館では鑑賞の機会を提供するだけして、肝心の考察については鑑賞者に丸投げするような粗雑な企画展が多く見られるが、研究の成果を反映しない展覧会こそ「仕分け」の対象にしてほしいものだ。

2010/10/09(土)(福住廉)

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“これも自分と認めざるをえない”展

会期:2010/07/16~2010/11/03

21_21 DESIGN SIGHT[東京都]

かつてのCMプランナー、いま表現研究者の佐藤雅彦がディレクションを務めた企画展。人間の属性というテーマのもと、最先端の情報工学や脳科学、生体科学などの知見と技術、そして芸術的感性によって制作された、およそ20作品を展示した。デザインエンジニアや研究者、アーティストたちによって制作された作品が立ち並んだ会場は、まさしくテーマパーク。来場者から収集した指紋や身長、体重、名前など、個人を特定するためのデータを利用しながら、ゲーム感覚で「私」の属性を体験させるところが醍醐味だ。長い行列を経て次々と作品をクリアしていくと、属性という共通項によって、「私」が見ず知らずの他者と同じグループに括られ、結果として「私」という境界がそれほど自明ではないことに気づかされる。おそらく佐藤のねらいは「私」に執着してやまない現代人の堅い肩をもみほぐすことにあるのだろうが、それを前世紀のポストモダニズムのように「構造」「相対化」「差異」「差延」「強度」などといった高踏的なジャーゴン(専門用語)によって理解させるのではなく、科学技術を動員したさまざまな装置によって体験させるところに、今世紀ならではの特徴がある。今後は、双方からそれぞれを架橋しようとするアプローチが課題となるはずだ。

2010/10/09(土)(福住廉)

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諸国畸人伝

会期:2010/09/04~2010/10/11

板橋区立美術館[東京都]

18~19世紀にかけて活躍した「畸人」たちによる絵を集めた企画展。曽我蕭白や白隠をはじめ、菅井梅関、林十江、佐竹蓬平、加藤信清、狩野一信、祗園井特、中村芳中、絵金の10人による作品48点が展示された。大きくいえば、いずれも辻惟雄がいう「奇想の系譜」に位置づけられる奇天烈な絵ばかりで、おもしろい。とくに、井特(せいとく)による太い眉毛の美人画や絵金の血みどろの芝居絵屏風、芳中(ほうちゅう)の丸みを帯びた独特の描線などに見応えがあった。ただ、それ以上に深く印象づけられたのは、信清と一信を除き、彼らはみな地方で制作していたという事実だ。作者の説明を記したキャプションにはわざわざ「陸奥」「常陸」「信濃」などと併記されていたから、企画者があえてこの点を強調しようとしていたことが伺える。制度的にも地政学的にも、畸人は中央よりもむしろ地方で育まれた。このことは、地方に在住しながら制作に勤しむ現在のアーティストたちにとっての希望の原理である。

2010/10/11(月)(福住廉)

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荒井恵子 展

会期:2010/10/12~2010/10/17

LADSギャラリー[大阪府]

首都圏を中心に活動している画家が、関西での初個展を開催。墨による抽象画で、一部に見られる茶褐色の部分は藍染めの廃液を活用している。泡立つような隆起を描いた作品からは、虚無の中からふつふつと湧き上がる生命力が感じられた。また、線や図形が凝集し、スパークする作品からは、前衛音楽のような音の軋みとリズムが連想される。作家の情報を持たず、飛び入りで出かけた展覧会だったが、幸運な出会いになった。今後も関西で発表の機会があれば出かけたい。

2010/10/13(火)(小吹隆文)

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