2024年03月01日号
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artscapeレビュー

第15回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展 ドイツ館ほか

2016年10月15日号

会期:2016/05/28~2016/11/27

[イタリア、ヴェネチア]

日本館のピロティは縁側空間となっていたが、ほとんど人は滞留せず、対照的に、隣りのWi-Fiフリー、充電OKのドイツ館は人がたまっていた。ここは国が難民を受け入れるように、建物を24時間開放する場所に変えた。ジャルディーニのパヴィリオンのなかで最もいかついドイツ館の壁を本当にあちこちぶち抜くという改造を実施(閉じるドアもない)しており、通常の状態を知っているとより驚かされる。またデントン・コーカー・マーシャルの設計で新しくなったオーストラリア館は、黒い箱となって水辺との関係性を強く打ち出す。内部に入ると、本物の大きなプールがあって度肝を抜く。展示は同国におけるプール建築をテーマとするが、水に足を浸してくつろぎ、来場者にその場を楽しませる空間演出だった! 金獅子賞になったスペイン館は、未完成というテーマ、洗練させた展示インスタレーションもいいけれど、何より紹介されている作品群のデザインのクオリティが異常に高いことに感銘を受けた。かなりの数だったが、それらのレベルが一様に高く、説明があまりなくても、写真だけでも十分に記憶に残る造形力である。そして個人的に強く印象に残ったのは、ロシア館だった。ソ連が1930年代以降に開催してきた巨大博覧会の建築をたどる。ミースの高層ビルが登場する同時代にアナクロな古典主義ががんがんつくられており、完全に建築史の空白である。以前もロシア館は冷戦時代の秘密工場の展示をやったが、知らない歴史は本当に面白い。なお、ジャルディーニでは、日本館とベネズエラ館がリニューアル工事をしていた。前者は伊東豊雄事務所が関わり、後付けのスロープを側面に変えるなど、なるべく吉阪建築の原形をリスペクトした介入である。またベネズエラ館は以前よりもカルロ・スカルパのデザインがくっきりと感じられて、初々しい感じになった。

写真:左=上から、ドイツ館、穴があけられたドイツ館、オーストラリア館 右=上から、スペイン館、ロシア館、ベネズエラ館

2016/09/11(日)(五十嵐太郎)

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