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artscapeレビュー

須田一政写真展「Hitchcockian」

2016年10月15日号

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会期:2016/09/04~2016/09/25

Gallery Photo/synthesis[東京都]

須田一政の作品に、このところTVの画面を写したものが増えてきていると感じていたのだが、どうやらその傾向はかなり前から始まっていたようだ。今回、東京・四谷のGallery Photo/synthesisで開催された須田の個展に展示されていたのは、「2006年に制作されたまま発表されることなく眠っていた」シリーズである。タイトルが示すように、この連作はサスペンス映画の巨匠、アルフレッド・ヒッチコック監督に捧げられている。
須田はヒッチコック映画の大ファンで、彼の作品を飽きることなく、何度も繰り返し見ているようだ。須田に言わせれば、そこには偶然はなく、「コーヒーカップ一つにも暗示的な意味を持たせ、見る側は無意識に彼の仕掛けにはめられる」。写真を使って、その「仕掛け」の分析を試みるというのが、このシリーズのもくろみであり、具体的にはTVの画面に映し出されたヒッチコック映画の映像の断片を、そのままカメラ複写して提示している。その数は230点以上、ヒッチコック映画の名作の数々が、須田の独自の視点で切り取られ、大小の写真にプリントされて、ギャラリーの壁全面に、撒き散らされるように展示されていた。
一言でいえば、ヒッチコック映画の魅力とは、ストーリーの細部への異様なこだわりと、そこに登場してくる小物から匂い立つ、濃密なフェティシズムの香りだろう。須田も、彼なりのこだわりを持ってヒッチコックに対抗し、写真による再構築を試みている。だが、結局のところ「私たちは見ていたものがヒッチコックの脳の内部だったことを思い知る」ことになる。写真を見るわれわれは、須田の導きでその「ヒッチコックの脳の内部」を彷徨うという、不穏ではあるが、どこか甘美でもある旅を体験することができる。そこには、もっと長くそこにいたいと思わせる、じつに蠱惑的な空間が成立していた。

2016/09/22(木)(飯沢耕太郎)

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