2024年03月01日号
次回3月18日更新予定

artscapeレビュー

古都祝奈良─時空を超えたアートの祭典─(八社寺アートプロジェクト)

2016年10月15日号

会期:2016/09/03~2016/10/23

東大寺+春日大社+興福寺+元興寺+大安寺+薬師寺+唐招提寺+西大寺[奈良県]

奈良市内の名だたる寺社に、アジアのアーティストがインスタレーションを展開するというので見に行った。当初これも2、3年に1度の芸術祭かと思っていたが、これは日中韓が進める東アジア文化都市の文化交流プロジェクトのひとつで、今年の開催都市・奈良市が繰り広げる1回限りの「時空を超えたアートの祭典」なのだ。アドバイザーを務めた北川フラム氏は、日中韓をはじめインド、イラン、シリア、トルコまで広くアジア圏のアーティストを集め、8つの寺社に作品を絡めている。最初に行ったのが、開会式の行なわれた大安寺。その塔跡隣地に川俣正が高さ20メートルを超す《足場の塔》を建てた。これは遠くからでも見え(そもそも奈良には高い建物が少ないので見晴らしがいい)、よく目立つ。しかしこのモニュメンタリティは川俣らしくないなあと思ったが、おおまかな骨組みはすでにつくられており、川俣はその周囲に足場を組むだけだったという。なるほど、本体のない足場だけの塔。やっぱり川俣らしい。
中国の蔡國強は先行して3月から木造船を制作、遣唐使船を思わせるこの船は、東アジア文化交流のシンボルとして東大寺の鏡池に浮かんでいる。韓国のキムスージャは元興寺の石舞台に鏡を張り、その上に漆黒に塗った楕円形のオブジェを立てた。おそらくブラックホールのような異次元への穴を想定したのだろうが、完璧な黒が得られず半端感は否めない。これを見て思い出したのがインド出身のアニッシュ・カプーア。彼はそれこそ完璧な黒い穴の作品で知られるが、光の99パーセント以上を吸収する黒い顔料のアートにおける独占使用権を買い取った、というニュースを聞いたことがあるからだ。キムスージャはこれを使いたかったに違いない。ちなみにカプーアは今回出ておらず、インドからは若手のシルパ・グプタが参加。カプーアはギャラが高いので声もかけなかったそうだ。そのグプタは薬師寺の広場に、頭部が家や雲のかたちをした輪郭だけの人間像を設置。これは記憶や思考を可視化した彫刻と捉えることもできるが、彼女の過去の作品や薬師寺の建築群の圧倒的な存在感に比べればものたりない。しかしそれを言い出せばきりがない。そもそも寺社に絡むといっても核心部に触れるものは少なく、裏の池とか境内の外とかちょっと外れた場所が多いのも事実。とはいえ20~30年前に比べれば、現代美術がよくぞここまで踏み込んだものだと感心する。


左=川俣正《足場の塔》
右=キムスージャ《演繹的なもの》
(いずれも撮影=筆者)

2016/09/03(土)(村田真)

2016年10月15日号の
artscapeレビュー

文字の大きさ