artscapeレビュー

2017年04月15日号のレビュー/プレビュー

ヨッちゃんビエンナーレ2017「コラージュ・キュビスム」

会期:2017/03/22~2017/03/31

オリエアート・ギャラリー[東京都]

加藤義夫氏が企画する世界最小かもしれないビエンナーレ。ヨッちゃんは年齢も身長も守備範囲もぼくとほぼ同じだが、違うのは彼がキュレーションもできること。その違いがこうして展覧会を企画する側と、それを書く側に分断するわけだ。それはともかく、同展は昨年秋に神戸で開かれたものの東京巡回になる。出品は、青木恵美子、植松琢磨、小野さおり、川口奈々子ら11人。多くの作家は、彼があっちこっちで審査員や推薦委員を務めていた展覧会から選ばれているが、ぼくも一緒に審査した展覧会もあるので、数名は知っている。大きな特徴は女性が8人、つまり大半を占めること。そのせいか全体に色があり、入念に描き込んだにぎやかな作品が多い。そんなに広くないスペースなので大きな作品は少なく、それがいっそう密度を濃くしている。

2017/03/22(水)(村田真)

カッサンドル・ポスター展 グラフィズムの革命

会期:2017/02/11~2017/03/26

埼玉県立近代美術館[埼玉県]

キュビスムやバウハウスの幾何学革命をセンスよく、ポピュラー化して大成功した商業的なグラフィック・デザイナーの軌跡をたどる。彼が途中からシュルレアリスムに傾倒し、混迷したあたりの作品をあまり知らなかったので興味深い。だが、逆にカッサンドルは、アーティストとしての自我が芽生え、悩み始めたことが、自殺という悲劇をもたらしたのだろう。

2017/03/22(水)(五十嵐太郎)

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千葉鉄也展

会期:2017/03/13~2017/03/25

クロスビューアーツ[東京都]

千葉が絵画を始めてもう20年以上になるが、その姿勢は一貫している。それはつまり「絵画」だ。絵画とはなにか、絵を描くとはどういうことか。それを絵を描くことで表現し続けている、といっていい。例えば《ミズウミ》。画面上から薄い青灰色、下から濃い青灰色の絵具をたっぷり塗っていき、徐々に混ぜてグラデーションにする。できた画面は波立つ湖面のようにも見えるが、それはあくまで絵具を塗り混ぜるという行為の結果にすぎないのだ。もうひとつ、タイトルは忘れたが、とても気に入った作品に、たしか正方形の画面に幅1センチほどの線がジグザグに交錯する絵があった。線は画面の縁まで来ると折り返し、また縁まで来ると折り返し……を繰り返して画面を埋め尽くしている。一見、絵具で線を延々と引き続けたように見えるが、じつはそうではなく、記憶に間違いがなければ、初めに1本のマスキングテープで画面をジグザグに覆い、そのテープをはがしながら余白に絵具を塗っていったのだという。だから絵具はつねにキャンバスの白い部分(とテープの上)に塗られ、絵具の上に重なることはない。絵画の原理・原点を見せられたようで、ハッとする。

2017/03/23(木)(村田真)

The Legacy of EXPO'70 建築の記憶─大阪万博の建築

会期:2017/03/25~2017/07/04

EXPO'70パビリオン[大阪府]

1970年に行なわれた大阪万博(日本万国博覧会)の建築に焦点を合わせた企画展。会場には、アメリカ館、英国館、せんい館、富士グループ・パビリオン、日立グループ館、三菱未来館などの建築模型や図面、記録写真、映像などが並び、EXPOタワーの模型や解体過程の記録写真も展示された。当時の人々は大阪万博を見物して、21世紀にはこんな街並みが広がっているのだろうと思い込んでいた(筆者もその一人)。しかし47年の時を経た今、パビリオン建築はむしろレトロフューチャーな趣。われわれはすでに「未来」を追い越してしまったのかもしれないと、ちょっぴり感傷的な思いに浸ってしまった。それはさておき、大阪万博は建築の一大実験場であり、パビリオンには、エアドームや吊り構造、黒川紀章らが提唱したメタボリズムなど、当時の最新技術や思想がたっぷりと注ぎ込まれていた。つまりパビリオン建築は、建築が手作りの1点ものから量産の工業製品へと移り変わる時代のシンボルであり、宣言でもあったのだ。本展の意義は、こうした事実を評論や論文ではなく、当時の資料を基にした展覧会で示した点にある。

2017/03/24(金)(小吹隆文)

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呉夏枝「-仮想の島- grandmother island 第1章」

会期:2017/03/04~2017/03/25

MATSUO MEGUMI +VOICE GALLERY pfs/w[京都府]

その出自と布や織物という扱う素材から、ディアスポラとフェミニズムの交差する地点に呉夏枝(お・はぢ)を位置づけることは難しくない。しかし彼女の作品は、図式的な理解に収まらない静謐な詩情を湛えている。
本個展では、「海に浮かぶ島」をモチーフとした染織作品が発表された。「島」のイメージの源泉には、祖母の出身地であり、呉自身も後年に訪れた韓国の済州島があるのだろう。だがよく見ると、織られた島のシルエットはそれぞれ異なり、単一の具体的な島の表現ではないようだ。織物自体が持つ、長い年月を経て受け継がれた古色のような風合いも相まって、それは遠い記憶の中で浮き沈みを繰り返す、おぼろげで到達できない地を思わせる。また、島と海に映る島影は、昼でも夜でもあるような境界の時間を生きているようだ。
「島」という言葉は、楽園的なイメージを持つ一方で、孤独や閉鎖性、非中心・周縁性といったイメージも想起させる。だが布に織られた島どうしは、空間を横切る何本もの糸でインスタレーションとして繋がり合い、閉じながらも半ばネットワーク状に開かれていることを示唆する。島から島への航路の軌跡や航海図を立体化したようにも見える。見る者の身体は、想像上の海の中を歩き回る。島から島へ、土地から土地への旅。垂れ下がった糸はまた、三つ編みのおさげ髪のように編まれ、女性の身体性(とその不在)も想起させる。織られた島は、不在の「彼女」の身体と繋がり、「彼女」の身体は確かに島の一部でもあるのだ。
本個展は、「grandmother island」という仮想の島の名を冠したプロジェクトの第1章として構想されている。本展の後、プロジェクトは、ワークショップや展覧会を重ねて、仮想の島やそこへつながる海路を見出していくという。これからの展開が非常に楽しみだ。

2017/03/25(土)(高嶋慈)

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