artscapeレビュー

齋藤陽道「絶対」

2011年08月15日号

会期:2011/07/06~2011/08/12

A/A gallery[東京都]

齋藤陽道は聾唖のハンデキャップを背負いながら活動している写真家。2009年に写真新世紀で佳作を受賞してデビューし、2010年には同優秀賞(佐内正史選)を受賞した。秋には赤々舎から写真集の刊行も決まり、いま最も注目を集めている若手の一人である。その彼の新作展が、「障害のある作家の作品を扱う日本初のコマーシャルギャラリー」である、アーツ千代田3331内のA/Agalleryで開催された。
実は2009年の写真新世紀で彼の作品を佳作に選んだのは僕で、その「タイヤ」には度肝を抜かれた。大型トラックのような車輛の巨大なタイヤを、走行中に至近距離で撮影した作品である。審査の時には、彼が聾唖者であることはまったく知らなかったのだが、後で聞いて、その衒いのないまっすぐな撮影のスタイルにあらためて共感を覚えた。今回展示された「絶対」のシリーズは、逆光気味に光を見つめて撮影したポートレート作品であり、やはり齋藤のストレートに被写体に向き合う姿勢がよく表われていた。車椅子の障害者を含む老若男女を撮影した写真の多くには、丸い光の輪(レンズのフレアー)が写っている。その波動が「いつかどこかでかならず、ひかりとともにお会いしましょう」というコメントと共振して見る者に迫ってくる。
たしかに心地よい写真ではあるが、以前の強引さ、力強さがやや薄れていることが気になる。「タイヤ」のような、わけのわからない衝動に突き動かされた作品をもう一度見てみたいと思う。被写体を受けとめるだけでなく、こちらからももう少し踏み込んでいくべきではないだろうか。

2011/07/13(水)(飯沢耕太郎)

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