2022年05月15日号
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artscapeレビュー

藤岡亜弥「Life Studies」

2011年08月15日号

会期:2011/07/23~2011/08/20

AKAAKA[東京都]

ニューヨークに居を移して活動している藤岡亜弥の里帰り展である。帰国に合わせて急遽企画された展示だったが、なかなか面白かった。近作の「Life Studies」はニューヨークでの日々の暮らしを綴ったもので、光と影のくっきりとしたコントラストの合間にヒトやモノが寄る辺なく浮遊している。どこで撮影したとしても、光景の片隅へ、片隅へと視線が動いていくのが藤岡の写真の特徴で、その先に現われてくる眺めが、時に傷口を逆なでするような痛みをともなって迫ってくる。タイトルはアメリカの小説家スーザン・ヴリーランドの伝記小説のタイトルを借用したもの。内容的には小説と直接のかかわりはないが、「生の研究」というのは、藤岡の写真家としての基本姿勢といえるのではないだろうか。
同時に展示されていた「アヤ子江古田気分」は、また別な意味で感慨深かった。藤岡は日大芸術学部写真学科に入学した1993年から、8年間にわたって江古田の小さな家の2階で暮らしていたのだという。階下には大家でもある82歳のおばあさんが住んでいた。西陽がきつく射し込む、一畳半の板張りの暗室がある部屋の、どこか奇妙に歪んだ日々の記憶が、ニューヨークであらためて焼き直したというプリントから浮かび上がってくる。誰もが身に覚えがありそうな、不安と希望と悔恨とが複雑にブレンドされた微妙な味わいの日常の断片だが、のちに写真集『さよならを教えて』(ビジュアルアーツ、2004)、『私は眠らない』(赤々舎、2009)で開花する彼女の才能が、既にしっかりと表われている。
なぜ個人的に感慨を覚えたかというと、今回展示された写真の何枚かは僕が最初に藤岡に会った時に見せられたものだったからだ。じわじわと食い込んでくるような写真に妙に引きつけられて、当時編集していた女性写真家16人のアンソロジー写真集『シャッター&ラヴ』(インファス、1996)に収録した。それが藤岡の写真家デビューだったわけだ。これらの写真を見ていると、もうこの時点で彼女の「Life Studies」が開始されていたことがよくわかる。

2011/07/23(土)(飯沢耕太郎)

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