artscapeレビュー
大英博物館──古代ギリシャ展
2011年08月15日号
会期:2011/07/05~2011/09/25
国立西洋美術館[東京都]
古代ギリシャといえば美術史では最初にして最高のピーク、といっても過言ではない。そんな古代の至宝をごっそり極東の地に貸し出してもいいのか、といらぬ心配を抱かないでもないが、そもそもギリシャ時代のオリジナルはほとんど残っておらず、出品作品の陶器を除く大半はローマ時代の模刻(ローマン・コピー)にすぎない。だからわれわれが目にするのはローマ時代のシミュレーショニズムか、アプロプリエーションアートなのだ。そしてこのローマのコピーがルネサンス時代に復活し、新古典主義時代に再復活し……と何度も召還され、現代にまでつながってくるのだからおもしろい。同展の目玉の《円盤投げ(ディスコボロス)》も2世紀にコピーされたもの。《円盤投げ》といえばギリシャの彫刻家ミュロンの作とされるが、オリジナルは失われ、コピーがいくつか残されている。そのうちもっとも有名なのはローマ国立博物館のものだが、首の向きがローマのは横向きなのに、こちらは下向きになっている。こうしたコピー段階(または修復段階)での少しずつの違い(間違い)が、長い目で美術史になんらかの影響を与えているとしたら、それはどこか遺伝子の取捨選択による生物進化に似てないか。ま、ともあれいろいろと楽しめる展覧会ではある。ちなみに、同展は2008年の北京オリンピックを機に企画され、世界中を巡回した後、2012年のロンドン・オリンピック開催時に大英博物館に戻るという。ロンドン・オリンピックの前宣伝を世界的に煽ると同時に、古代オリンピック発祥の地ギリシャから返還要求の出ている大英博物館のコレクション問題への罪滅ぼしの意識もあるのかもしれない。
2011/07/04(月)(村田真)