artscapeレビュー

第1回 保津川トーキング「ダムとアート──天若湖アートプロジェクトの現場から」

2011年08月15日号

会期:2011/07/10

みとき屋[京都府]

日吉ダム(京都府南丹市日吉町)の建設によってつくられた天若湖(あまわかこ)。ここで毎年、夏の二日間だけ、NPOや芸術系大学の学生、地元の人々などによる「天若湖アートプロジェクト──あかりがつなぐ記憶」というイベントが開催されている。ダム建設で水没した五つの集落(約120戸)の家々の灯りを再現しようというプロジェクトで、夜のダム湖面全体にLEDライトの灯りが無数に浮かび上がるという壮大なインスタレーションである。日吉ダムのある保津川(桂川)流域について学ぶ「保津川トーキング」第1回で、この「天若湖アートプロジェクト2011」実行委員長さとうひさゑさんからこれまでの活動が紹介された。今年で7年目というこのプロジェクトをじつは私は知らなかったのだが、ダム建設によって移転を余儀なくされた集落の住民をはじめ、周辺地域の人々、他の協力者など、それぞれの複雑な思いや立場とも関わりながら、少しずつそのネットワークが広がってきたのだという。水没地区の住民は、ほぼ集落ごと、集団で馴染みのない町へと移転しているケースもあるそうだ。記憶をテーマに、新たな湖面利用という観点から交流や活性化を生み出そうとするこのプロジェクトは、必ずしも誰からも快く思われるものではないだろう。しかしこの活動は、ただその風景を美しいと感じる直感的な感覚から見る人たちが交流していく可能性を見せてくれる。ダムの是非論を超えてほかのいろいろな活動のヒントになりうる気がする。

2011/07/16(土)(酒井千穂)

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